レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

2020-01-01から1年間の記事一覧

きみの頬に最後のキスを落とすことさえままならない

閃光が走るように全身がびりびりと打ち震えるようなときもある。思いがけない場所で、思いがけない人から賛辞をもらうときもあったかもしれない。ああ、ぼくは特別ではないけれど、力を尽くしてやるべきことがあるんだ、と、できるはずなんだと、確信したと…

自分がだめに思えて胸にナイフを突き立ててしまいたい

ぼくが若く死んだら、サテンに包んでバラのベッドに寝かせてほしい。 きみの言うことはわかるよ。ぼくはちょっと感情的になってぴりぴりしているみたいだ。普段ほとんど食べないスナック菓子もあっという間に空にして、枕に染みていくのも構わず濡れた髪を押…

それがわからない限り、ぼくに糸は垂れない

わかってないな、今日もぼくはわかってない。 リップクリームを塗らずにがさがさに乾燥した唇を爪でひっかいていたら、あっという間に口に血の味が広がった。歯磨きをしたばかりなのに。 あなたが死んだら、この骨をくれる?後頭部にある鶏冠みたいにとげと…

大きくて扱いきれない感情と衝動に任せた言葉

どうして呪術の真似事なんてしたんだろう。願いが本当に聞き入れられるとでも思っていたんだろうか。海辺に高く積まれたブロックの上で、十メートル手前にあったセブンティーンアイス自販機で買ったチョコミントを舐めた。足がぶらぶら、砂には届かず飛び降…

歌姫へ

数日前、あなたのニュースを聞いたとき、私は楽観視していたというか、全然リアルなこととして捉えられなくて、特別な感傷もなくそれを受け止めました。 今日あなたの死がはっきりと報じられてから、私はあなたの歌を聴きました。私は他の誰の歌よりもあなた…

skit(試作品)

※音流れます

ぼくは笑う、あざ笑う、何か勘違いをしているんじゃないの?

ちょっと笑っちゃうよね。笑ってしまう。あは、と間の抜けた息が漏れる。たぶん、呪いが成就したのだ。お願いだから不幸になってくれ、相対的にぼくを幸せにしてくれ、という全霊を傾けた呪いが、遠くて見えないどこかで叶ったのだ。じゃなきゃこんなに笑え…

書いた記事が60件を超えた

つまり三ヶ月は続けているってことだ。休んじゃえ、の日もあったけど、それなりに続けている。 読み返すと本当にこんなの書いたっけ? と思うことも多い。あーあ、こんな、どうしようもない独り言をつらつら書き並べて、なんの意味もないのに、公開している…

どんなに勘違いしても凡庸でしかないんじゃないか

満腹と満足は違うってテレビが言っていたけど、どうやったら満足できるのは教えてくれなかった。三日は連続して食べた冷凍食品の袋を捨てて、割り箸と紙コップも片付けた。きみはぐったりしているわりには、ぼくに話しかけようとしていた。転がる自転車の荷…

淡いピンク色に塗られた花びらみたいな爪が、臍の下を彷徨った

高校三年生の梅雨だった。私は学年四位の彼女に勉強を教わるべく、金曜日の夕方、泊まりの荷物を持って彼女の家に上がり込んでいた。彼女の母親は夜遅くまで働いていて、私たちはきゃあきゃあと騒ぎながら勉強をしたり、コンビニで買ってきた夕飯を食べたり…

音楽だろうが運動だろうがお菓子だろうが、煙草だろうがなんでもよかった

湿っている、ここ数週間は何もかも。胸ポケットにしまっておいた煙草だけはかろうじて乾いていた。一本口にくわえてブルーの百円ライターを取り出す。ゆっくり息を吸うとうまいこと火が付いた。かなり久しぶりだったから、吸えないのじゃないかと心配だった…

雀のひしゃげた頭が転がっていただけで気が動転してしまった

何かホラーゲームの動画を見ていて、主人公が仲間の死体に大層驚いて錯乱する描写があったのだけれど、ぼくは愚かにも他人の死体にそこまで心乱されるわけがないじゃないか、なんて思ったのだった。ところが、タイヤの空気を入れるために立ち寄ったサイクル…

何年も使っている傘をついにどこかに忘れてきてしまった

自傷行為を我慢して、たぶん何日も経っていないんだろうな。毎日そのことを考えているから、思い切ってやってしまったほうがいいんじゃないかと思えてきた。あと一ヶ月くらいで果たして強くなれるだろうか。 もっとも、待つのは二週間くらいだろう。何にもな…

ぼくが着飾るのはこの世でたった一人、あなたに見てもらうためだよ

トマトを三個、胡瓜を一本、黄パプリカを一個。 じゃがいもはあらかじめ加熱してあるやつを買っておいた。 かわいい、とてもかわいいね。何度でもあなたを写真に撮りたい。ぼくをあなたに見てもらいたい。ぼくが着飾るのはこの世でたった一人、あなたに見て…

そうだった、彼女の名前を思い出したんだった

どれでもいいとは言わないが、選択をただで見せようとは思わない。親しくしたいわけでもないが、言葉を遮られる謂れはない。無害な人間でいたいけれども、愚かなやつと思われるのはしゃくに触る。講釈を垂れるならぼく以外を選んでほしい。 痩せたい。すごく…

風船と一緒に眠ると違う世界にいけるんだって

恐ろしい夢を見た。起きてすぐ、それが夢だったことを確認したくて、スマートフォンでSNSを確認した。エアコンがつけっぱなしだったせいか、喉が渇いて枯れそうに痛む。もぞもぞと起き上がって、なんとか冷蔵庫までたどり着くと、冷えたキリンレモンがぼくを…

どんなものを見に行ったって刺激的なことなんてないんじゃないか

深い紫色の口紅を予行演習でつけてみたけれど、なんだかちぐはぐな気がしたし、時間が有り余っているわけでもなかったので、ティッシュを口に咥えた。どうせマスクをするのだから、大した話でもない。 何か月ぶりだろう。あの日も雨が降っていた。あれは秋雨…

イグアナの彼女(半ば)

「他に何か訊いておくことある? 答えるよ」 薄紫色のセーターを脱ぎながら、彼女が言った。僕は素朴な疑問を口にした。 「こわくないんですか」 「こわかったらこんなことするわけないじゃん」 「じゃあ、こわいことはなんですか」 セーターの中に着込んで…

集中力のねじをキリキリと巻き上げてくれる

記憶ってなんて当てにならないんだろう。忘れたいことはいつまでも頭にこびりついて、思い出したいことにはちっとも手が届かない。久しぶりなんだ、こうやって何か書こうと思えるのは。一年以上前に書いたはずの短編小説、その続きが書きたいのに、データが…

浅草で見た紫色の帯を買ってさえいれば

むかし覚えた落語のひとつは最初の一、二分だけ今でもそらで言える。続きが声にならないのがなんとも物悲しくて、口ずさんでも誰にも届くことなく消えていく。青い着物も、好みの帯が見つからないことを理由に何年も着ていない。いつだか浅草で見かけた紫色…

どこまで取り繕ったかを覚えておくのは難しい

上手に嘘をつくのは難しい。楽しいお茶会で笑って、何の問題もないようにきれいに嘘をつく。嘘には少しだけ本当を混ぜるといいらしい。心底うんざりしているという感情を嘘に乗せてぼくはにこにこする。笑顔でいることはそんなに難しくない。 今日、とても好…

アイシャドウがきれいに見えるように目を伏せて

そのまま、少し上を向いて。背筋を伸ばして。帽子を深くかぶってくれる? じゃあ一度目を閉じて、薄く開けてみて。 きみは今でこそぼくの頭をかかえているけれど、昔は違った、それを覚えているのか。きみは白い毛むくじゃらで、ちょうどあの本の表紙の女の…

きみと夏に行きたいと願って眠るしかない

体調はともかく、精神的にはかなり落ち着いてきたはずだ。ひとは追い詰められて頭が働かなくなると、自分は孤独だと信じてしまう。ぼくもそうだ。確かにぼくは孤独だし、自分のことは自分でやらなければいけないけれど、それはぼくに一人で決断する力がある…

武蔵小金井駅へ向かう最終のバスにかろうじて飛び乗った

虫の声も聞こえないくらい静まりかえった濃紺のよる、愛してるって言って、とあの女に言われたときぼくは突然彼女のすべてが恐ろしくなって、ぼくの胸に縋ろうとする薄い肩を押しのけて、武蔵小金井駅へ向かう最終のバスにかろうじて飛び乗った。心臓がばく…

ぼくにはどうしようもないことばかりだ

幸せか不幸せかと訊かれたら、きみなら何て答える? ぼくはぼくのために幸せだと答えてしまうだろう。不幸の近くに人は集まらないから。別に不幸は悪いことではないのに、臆病なぼくは幸せだと答える。ぼくは幸せなんだ、だから誰もぼくを見捨てないでくれ。…

世界征服は天国に行ったあとにする

あたしもうやめる。世界を征服したくて、毎朝食べていたトーストの習慣も投げ出したけど、世界は一向にあたしのものになる気配はない。宇宙人に賄賂を渡して、あたしの味方になってもらうつもりだったけど、流れ星を何個か確認できただけで、UFOが着陸するの…

日本語は中国大陸の植民地語である

「日本語は中国の植民地語である。中国語がその高度な文明とともに流入する前、日本列島には文字をもたず語彙に乏しい倭語しか存在しなかった。そこへ漢語が持ち込まれ、豊富な意味をもつ漢語による圧力で言葉が変形し、新たに和語が作られた。倭語、漢語、…

ぼくは再起動されなければならない

一年前と同じだ。一年前の今頃も、熱が下がらなくて苦しんだ。雨が降っているからなのか、ぼくの体の歯車が狂ってしまったからなのかはわからない。 きみもまだ調子が悪いみたいで、突発的な言葉をかける以外眠っている。きみの体だって、シャツ越しで十分わ…

男として女に性器を挿入したいという欲求

成り代わりたいのだ。すべて持っている、何もかも優れているように見えるからだ。 がっしりした大きなからだ、筋肉のつきやすい運動に特化したからだ、そしてなにより、他者のからだの中に自分の性器を挿れることが社会的に容認され、ともすると推奨されてい…

起床したぼくはレーズンが練り込まれたパンを食べる

夜、きみはぼくのために羊を数える。ぼくの枕の上をたぶん五百匹くらいが飛び越えていくころ、ぼくは眠りにつく。ぼくは最後の羊を見ることなく眠ってしまう。朝になってもきみは昨夜の羊の数を教えてくれない。ぼくを緊張させたくないのだ。 夜、きみはぼく…