レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

日々がどんどん悪くなっていくような不安に襲われる

パーティーだよ、ときみに言っても、ううんとか鈍い返事しか返ってこない。 あと三日経てばパーティーだ。たぶんぼくときみだけで、そうだな、パスタでも茹でようか。 ぼくは昨日ずいぶん頑張ってしまって、そのせいか夜はまったく眠れなかった。うとうとし…

ぼくの文章なんか全部塵だ

不安になる天才だ。これ以上不安になったら病気じみてしまう。だからぼくは集中する。例えば文章を書くことに。例えば動画を見ることに。例えば料理をすることに。不安からうっかり目を逸らす時間を増やそうとしているのだ。 それは正しいんだけどさあ、そう…

洗面所でタオルに顔を押しつけてきみを呼んだ

きみはあんなに眠そうだったのに、ぼくがわあわあと泣き出したのを見るや否やすっとんで来た。眠いんでしょ、ほっといてよと押しのけようとしてもびくともしなかった。眠くないよときみは言った。眠いけど、一番大事なことはちゃんとわかってるよと言った。 …

裸足で出かけて、首を吊れるか確認して、時間はあっけなく過ぎていく

どうして一日は終わってしまうんだろ。終わってくれないと困る気もするけど、もう4時になってしまって、ぼくはいつもの如く焦っている。 やぶ医者のいる整骨院に、よくわからない書類を提出するのが腹立たしくて、ぼくは靴下も履かないで外に出た。舗装され…

自転車が揺れて、また真っすぐに走り出したときの、あの感じ

突っ走って一日が終わった。から回って疲労だけが残った。顔がべたべたしていた。 ただ、自転車を漕いでいる間だけはきみがぼくを乗っ取ったように元気に振る舞って、全部元通りになるよとか、こんなの大丈夫だからねとつぶやきながらうちに帰った。左手首に…

さよならなんて経験したばっかりなのに

またさよなら?不意打ちの冷水みたいな宣告じゃないか。 なにものとも相容れないよと言われているようで落ち込むなあと思った。ぼくは他人とも、所属することを決められた場所とも相容れないんだ。 わあわあだ。こんなの、わあわあだ。訳が分からなくなって…

黒いワンピース

欲しかったの。 きみが、ワンピースを着なよって言った。絶対似合うよ、これなんかどう、って指さした、その指先から花びらが溢れた。たくさんの白い花は黒いワンピースに吸い込まれてちらちらと瞬いた。ぼくはそれを手にとって、試着室へ持っていった。 お…

少し楽しい話をしようか、ここのところ疲れていただろうから

そうだなあ、ときみはぼくたちの部屋の大きな窓から空を見上げた。 ああそうだ、あの帽子は?覚えてる? うん、ちゃんと覚えてる。夏のお帽子でしょ。ぼくは答える。 あれをかぶって行きたいところはどこ? 川沿いを歩きたい。ショッピングモールに行きたい…

タロットカードのいうことをどのくらい聞けばいいのかな

タロットカードはすぐに動き出すことを制止していた。そう、とぼくは嘆息した。今すぐにでも動き出したかったけれど、諦めたほうがいいのかな。スピリチュアルは信じないくせに。 一人になって自由になった途端、当然のことだけど、自分という人間の軽さに絶…

君とはもうこれっきり、さよなら

いっさいがっさい、捨ててしまえば楽になる、それは確かだった。 実際ぼくはすっきりした気持ちでいて、きみとベッドに寝そべっていた。 今日は暖かかった。ぼくはとびきりのおしゃれをして、君と会った。ずいぶん長い時間をかけて、ぼくは君にさよならを伝…

梅酒の瓶なんかぼくに洗えるはずないのに

駐輪場が突然目の前に現れたようだった。こんなところに自転車がいっぱいあったのか、とびっくりした。 新しい職場で働き始めてもうすぐ二ヶ月になるけれど、ぼくもきみもそんなことにすら気付かなかった。 もしかしたら、それが目に入ったということは、ぼ…

きみを休ませる、眠らせる、いつかのために

期待するとわくわくする。期待すると夢を見られる。期待すると不安に靄がかかる。ぼくは期待をした。 ことは期待どおりには進まなかった。ぼくはぼくのままで、ぼくの環境も変わらなかった。きみは眠っているみたいだった。ぼくがこんなふうに苦しみだすと、…

表現の仕方がわからなかったから

職場は寒かった。ぼくは屋上に出る手前の倉庫で、服を脱いだ。きみは怯えていた。誰か人が来るのじゃないかと、心配してくれていたのだろう。 ぼくはもう、自分の状態をどう表現したらいいのかわからなくて、紺色のカーディガンも、白いシャツも、グレーのズ…

いつなら死ねるのか、それとも死ねないのか

失敗、失敗、失敗。 ぼくがこれまでに犯した失敗を、きみは数えているだろうか。 それとも、どれも失敗ではないと抱擁でもしてくれるのか。 きみですら今のぼくを守ることはできない。わかる?今の、窓さえ開けば身を投げようとするぼくの身勝手さを、きみは…

変わらないぼく、変わらないきみ

近い話、遠い話、どちらでもいいけれど、どちらでもそう変わらないのだけれど、きみはぼくに失望するだろう。 そんなはずないときみは言うけれど、じゃあいいよ、ぼくがぼくに失望するんだ。 飛行機でも飛び立ちそうな音を鼻から立てて、ぼくの醜いこと。な…

人生どうでもいい

人生を自分のために使えないなんてクソだ。 自分の好きなことが見つからないなんて嘘だ。 ぼくは王だ。ぼくは、ぼくがかしずくべき唯一の王だ。 そうだときみが言う。あなたは王だと。そうだそうだと囃し立てる。 人生を自分のために使えないなんてクソだ。 …

鮮やかだったのを覚えている?

もうずいぶん楽しくない気がする。楽しいのかもしれないけれど、幸せではないのは確かだった。 ぼくは愚かだった。幸せになれと背中を押されているのに、幸せに身を置くことができなかった。 きみはそんなぼくをどう見ていたんだろう。 ぼくが最後に幸せだっ…

これはチャンスだときみは言った

月曜日だった。これはチャンスだときみは言った。嬉しそうに、悲痛な声でそう言った。 きみはぼくの背中を押した。ぼくは自由になることを決めた。パートナーからの解放だった。 自由はみじめだけれど鮮やかで、世界がくるくる回っているみたいだ。きみはた…

もっと、ちゃんと、ふつうだったろ

ノートに挟んであった、君の書いた言葉を見た。十年ぶりでも、きみは連続してきみだった。 パンなんてかさかさしてそのくせ湿度があって好きじゃない。きみは笑って、でもおいしいよと言う。 この白いパソコンを買うのだって、きみの手を焼いた、憶えている…

痛みと熱ってほとんど同じだね、平気だよときみは言う

大丈夫。大丈夫って、もう、そろそろ頃合いなんだ。 熱いね。とてもあつい。てのひら、そう、なぞって文字を書いてよ。大丈夫?って書いたね。ほら、そういうこと言う。 体温計の銀色に、瞳が歪んで映っている。きみはそれを取り上げて、ぼくの腋に差し込ん…

セックスしていると、きみはぼくを見たり、不本意ながらも気持ちよさそうにしたり、痛そうに顔を歪める

ぼくは時々セックスをする。もちろん相手はきみではないけど、三人でセックスに臨んでいるような気分になる。 ぼくは気持ちがよくて、ああとかううとか声を出す。きみはぼくを見て、ある時は額を撫でてくれる。それから一緒に横になって、ぼくの快感や痛みに…

どんなことでも一人でできるよ

今日自分がやってのけたことなんか全部忘れて、いいんだ、もうぼくは今日のお夕飯のことだけ考えていればいいんだ、ぼくはもう解放されたんだ、太陽がぼくを差さないことにだって気づかなくていい、そしてぼくはやっときみを思い出す。 きみはたぶん、ぼくの…

痛みに耐えている、きみは焦っている

ぼくはだめだ。だめな人間なんだ。深呼吸してやりすごせばいい苦しみを、真正面からぶつかって転げ落ちて、呪詛を吐いて、その結果がこれだ。 痛い、とてもとても痛いんだ。これは身体的な感覚だ。きみにはどうしようもないことだ、病院に行って薬をもらって…

スーパーの床に寝っ転がって泣き喚きたいのに

きみが背中にくっついている。閉店前のスーパーは、レジの周辺だけさわさわと混雑していて、チーズとか、キムチとか置いてある一画には全然人がいなかった。 だからぼくは白く清掃されたタイルに寝転がって大声で泣き叫びたくて、左手にかけていたかごを床へ…

本当のおかあさんはどこにもいない

私は年上の女性に好かれる。自分で言うのも何だが、女っ気も男っ気もなく、害を及ぼさない純朴少年らしいところが、彼女らの警戒心を解くのだろう。私も彼女らが好きだ。大学の助教授、公園で知り合ったバツイチ、接骨院のバイト、エトセトラ。 彼女らとの食…

君なんかよりあの人のほうがぼくを愛してくれている

銀色のボタンを半分押し込むと、視界のピントが合う。レンズが小さくジー、と音を立てて、ピピッと「ピントが合いましたよ」を知らせる。緊張なのか震えようとする肘を抑えて、銀色のボタンを深く押すと、カシャリと箱の中から音が聞こえる。指の力を緩める…

不満、涙をとめられない

生きがいなんかなくていいよ、って言ってよ。 どうして言ってくれないの。 ぼくを幸せにするなんて約束しなくていいよ。 本当はしてほしいけど、無理しないでよ。 ああ、ちがうな。 全部違うな、やっぱりきみには一緒にいてもらわないと困るんだ、そうやって…