レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

天秤が狂っているのかぼくが悪事を働いたのか誰がわかるというんだ

二つを天秤にかける。天秤は傾く。ぼくは上に上がってしまったほうに人差し指を置いて力を込める。バランスは逆になって、ぼくは皿の表面にべったりと付いた脂ぎった指紋をハンカチで拭う。天秤が狂っているのか、ぼくが悪事を働いたのか、誰がわかるというんだ?

 

ずいぶん社交的な動物になってみたんだね。

ワインを8杯飲んで帰った夜、きみはそう言った。日付はもう、今日ではなかった。ぼくは耳からじゃらじゃらした飾りをぶら下げて、エナメルのヒールをぴかぴか光らせながら、真夜中の通りを歩いていた。

 

ぼくは降りなければいけない駅で降りなかった。座席で眠っていたわけではない。ただ降りなかった。終電はなくなってしまって、ぼくは二駅歩くことになった。足が痛かった。雨も降り続いていた。スマートフォンが何度も光って、ぼくへのメッセージを知らせた。別にたいして重要に思っていない人たちからの連絡だった。けれど、ぼくは重要に思っているみたいなメッセージを彼らに送っていた。だから仕方ない。

 

きみは別にぼくを揶揄したいわけではなかった。ただ事実を口にして、ぼくを心配していた。ぼくは笑った。今のぼくは何もかも完璧で、長く伸びた前髪がきみに似てきたこともぼくを嬉しくさせた。

 

きみは今度買い物に行ったとき、長袖の寝巻きを買うようにぼくを促した。それをスマートフォンにメモするよう言った。気に入っていた水色の寝巻きはボールペンを引っかけて破いてしまった。それの代わりを買えということだろう。急にあばらのあたりが痛んだ気がした。ボールペンの先はそこにぶつかってしこたま流血させてしまい、看護師に叱られながらガーゼを貼られたのだった。

 

ふ、と笑うぼくをきみは眺めている。ぼくは変わるよ、いつものようにね。苦労をかけるけど、どうにかしてね。そう、ぼくは責任をとるつもりはないんだ。