レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

誰もぼくに話しかけない、ぼくを見ない、ぼくのことを知らない

どうぞ、あなたの願いを話してみてください。

 

ぼくの願いは、道端の石ころになることです。誰もぼくを気に留めず、ぼくに気付かず、ぼくをまなざすことがない。誰の会話の話題にもぼくは上がらない。

 

ねえ、今日花瓶の水誰が替えてくれたんだろう。

さあ。知らないけど誰かでしょ。

 

あの人覚えてる? ほら先週会った……何を着てたっけ?

誰のことだっけ。私忘れちゃった。

 

さっきの人時々見かけるよね。名前知ってる?

知らない。話したこともないし。

 

誰だっけ、誰かなんだけど、思い出せないしそんなに気にするほどのことでもないかもしれない。

 

ぼくがなりたいのは、そういう誰かだ。誰もぼくに話しかけない、ぼくを見ない。ぼくのことを知らない。ぼくがどんな人物か興味を持つことはない。ぼくは何者にもならない。女でも男でもない。生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない。誰もぼくの歩いた後ろに足跡を見つけることはない。

 

ぼくは誰にも興味がない。(厳密にいうとあるのだけれど、とりあえず聞いてね)

誰かに興味を持つことがないから、同じように、周囲もぼくに興味を持たないでほしいと思う。興味を持たなかったとしても、ぼくを通りすがりの人としてつかまえたりもしないでほしい。ぼくは誰の話も聞く気はない。……ぼくはこう見えて恩義と筋で生きている人間だ。恩義があると認識すれば返そうとしてしまう。自分が筋を通していないと感じれば、無理やりにでも通そうと動く。ぼくはがんじがらめだ。

 

ぼくはあの人が好き。彼女が好き。あの子が好き。彼と遊びたい。彼女に会いたい。ぼくは彼らと過ごすのを心地よく感じる。楽しいと感じる。そういう関係性を作ることもできる。稀にではあるけれど。

 

どう? わかった? わかってくれるよね。きみならわかってくれるよね。ぼくが望むものを理解してくれるよね。怒らないでね。どうか怒らないでね。頭を抱えてくれる? 額を撫でて、涙を拭ってくれるよね。いつものように、ぼくを見下ろしてくれるよね。