レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

この世界はすべてノットフォーミーって感じだ

ぼくの大きすぎる独り言にきみは逐一反応してくれるけれど、周囲の人にはやっぱり独り言としか映らない。人間が多すぎる。人間は嫌いだ。会話は嫌いだ。相手の話になんか興味はない。聞いていたくない。もちろん、一緒に過ごすのが心地よい相手は少ないけれど存在する。その人たち以外の話だ。

 

なんか、ぼくばっかりって感じがしている、ずっと。そんなことないのに。どうしてつまらない話しかできない人たちが、楽しそうに長々と喋って、周囲はそれを穏やかに時折笑い声を上げながら聞いているの? ぼくは天井を見上げて、エアコンの羽が小刻みに動くさまを眺めていた。ずいぶん長いこと眺めていたけれど、まだまだ話は終わっていなかった。

 

うまく言えないなんて嘘だ。言おうと思えばいくらでも言える。間延びした話し方、あたしはぁー、それでぇー、だったんですけどぉー、とか。文句をつけるつもりはない。ただぼくがそれを苦手だってだけだ。他人の、確かにちょっと面白くなってしまうくらい運の悪い話を、一日に何度も何度もあげつらう感じ。どうでもいい。毎回それで笑える人たちの神経がわからない。

 

そもそもぼくはみんなの名前を知らないし、覚えようとも思わない。ぼくの名前も呼ばないでほしい。火曜日に来るなんて珍しいですねなんて話しかけないでほしい。ぼくがそこへ行くのは、爆弾でも落とさない限り更地にはならないんじゃないかってくらいに背の高い草が生え揃った工事現場の脇を自転車で走る時、きみが気持ちよさそうにぼくの背中に貼りつくからだ。

 

ぼくに合っていない。この世界はすべてノットフォーミーって感じだ。通り魔になる人の気持ちがわかる気がする。嫌いだ、みんなみんな嫌いなんだ、憎いし、羨ましいし、ずるいと思う。十代の頃、きみと毎朝学校へ走りながら遅刻していたときのほうが、よっぽどぼくは人間だった。少なくとも動物だった。今はモンスターのなりそこないだ。ぼくは何かになりたかったのに、ぼくにもなれずに今年も夏を茹だる。