レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

どうしてぼくは乙姫様に会ってはいけないの

朝、ぼくはドンという大きな音で目覚めた。背中に痛みが走って、自分がベッドから落っこちたことをやっと認識した。頭もしたたかに打っていて、それで、肩も足も痛くて、それでぼくはどうしたんだっけ? 酸素ボンベが必要だ。ぼくは浦島太郎なのかもしれなか…

きみはそれは違う、それはだめなんだよと悲しそうにぼくを諭した

きみはぼくがそうだよねと言ったら、そうだよと返してくれる。それがどんなにそうじゃないことであっても、そう返してくれる。ただきみがぼくに許してくれないことはやはりいくつかあって、ぼくは今日もきみに喚き散らしながらそうだよね、そうなんだよねと…

一層強く腰を動かした後、おじさんはぼくの左手首を掴んで顔を押し当て香りをかぐように大きく呼吸をした

麻雀をやっている間だけは、何もかも忘れて、ハツが来たら役牌でいつでも鳴けるのになあとか、うまくソーズを捨てられたなあとか、遊ぶことに集中できた。雀荘の窓際が日焼けしそうな強い日差しを中に取り込んでいたとしても、受動喫煙で肺が汚れていったと…

気弱で穏やかな、パン屋の脇のベンチでかたかたと震える幽霊にもう一度会いたい

今日はくたびれてしまった。炎天下の中歩き回ったからだろう。いつもなら自転車で通る道を、ばかみたいに汗を垂らしながら歩いた。目が太陽光にやられてしまったような気がする。 幸いなことに食欲はあった。ぼくはいつも弁当を完食する。残飯の捨て方がわか…

その時間が過ぎるのを耐えるだけでも打ち勝ったと言えるのだ

もうしばらく耐えなければならない。しばらく耐えなければならない。時間を信じるしかないのだ。そこにただ居るだけでいい、その時間を過ごすだけでいい、何もしなくたって死にはしないし、何もしないなんてできるはずもない。 おかしい。眠くて仕方がない。…

ぼくはカウンセラーではないし、自分を守るために電話を切らなければならない

電話が鳴る。着信音は穏やかな音色だった。ぼくは嫌だなと思いながら電話を取る。相手はぼくを捌け口にしている。ぼくはカウンセラーではないし、ぼくは自分を守るために電話を切らなければならない。冷静に伝えるにはどうしたらいいかと考えあぐねているう…

主治医はぼくの状態を安定していると高く評価した

ぼくにはきっとそういう能力があるんだなあ。精神的に不安定な人を引き寄せる能力だ。ぼくだってそうなのだから、それをとやかく言うつもりはないけれど、ぼくは寄りかかられるのが好きではないし、寄りかかることもできればしたくない。 手のひらを太陽に透…

これはぼくの決意表明で、嘘偽りない話だ

これはぼくの決意表明で、嘘偽りない話だ。ぼくはあのまま自分を清浄な言葉で覆ったまま切り売りを続けるより、今こうして一人で明日を考えず部屋にいるほうがずっといい。君を不思議な気持ちと、苛立ちと、嫌悪と憐憫で守ろうとするより、彼女の香りを胸に…

そんな言葉は知らないけれど、きみが毎日言うんだからそれはあるんだろう

部屋の掃除をして、洗濯を回して、排水口にハイターを吹きかけて、ハイターのあの奇妙に不安になる塩素の匂いをかいでいた。キッチンにいると幽霊が話しかけてくることが多いのだけれど、今日は少し涼しくなった浴槽で膝を抱えて空想に耽っているようだった。…

自分が欲しいものを欲しいと表明することを恥ずかしく思わない

恥ずかしくないと思う。ぼくはまったく似合わないオードパルファムをつけて、その香りをマスク越しに嗅ぎながら、ぼくは自分が欲しいものを欲しいと表明することを恥ずかしく思わなかった。 さらさらした手触りのワンピースも、ベルトが銀色に輝くサンダルも…

幽霊はきみに、ぼくが幸せになれるはずがないと言った

ぼくが小さな画面で映画を見たり、熟れすぎたトマトを冷蔵庫から発掘したり、使ったエコバッグをたたんだりしている背後で、幽霊は不安に駆られていた。幽霊は透けた足で鳴らない足踏みを繰り返し、そのいらいらをきみにぶつけていた。きみは冷静に幽霊の不…

それはやっぱりぼくには馴染みようもない大人の女性の強く煙る香りで、彼女の香りだった

えっ、とぼくが素っ頓狂な声で驚く様子を、彼女はちょっと気まずそうに見ていた。 ぼくは気が早いことに、彼女と同棲する計画を立てていた。同棲と言っても、彼女の部屋にぼくが転がり込む形でなし崩しに同居を始めるような、そんなずさんな計画だ。でも彼女…

そこにある不安に触らないようにして、憎悪を氷漬けにして、娼嫉を塗りつぶして

自転車の上で気を失う直前、ハンドルからずり落ちそうになるぼくの両手へきみが両手を重ねた。この感覚は久しぶりだった。ペダルからほとんど離れようとしていたサンダルは一度半回転させたそれへ再度乗せられた。ぼくはあの部屋のベッドにたどり着くことも…

今やぼくに涙を流させるのは彼女の名前だ

ねえ、ねえ、わかってる? ぼく、自傷行為をずっとしていないんだ。ずっとしていない。一週間は我慢している。その代わりに無花果を毎日かじっている。自転車を三十分漕いだ先のスーパーにそれは売られていて、ぼくは二日に一度無花果を買いに行く。四十八円…

広げた腕の中にしぶしぶ体を預けて、吐いたワインできみのシャツを汚す

紅茶の話をしてほしい。ぼくの知らない茶葉の話、かいだことのない温かい香りの話。専門店へ行って、何を頼むのかとか、店員とどんな話をするのかとか、教えてほしい。ぼくはあなたの膝の上に頭を乗せて、あなたを見上げて話を聞きたい。 色の話をしてほしい…

彼女は最後に、唇の右端にはみ出したらしいリップをハンカチで拭うと、ぱちんと音を立ててミラーをたたんだ

「愛していたんですか?」 「愛していたわ。最後には自分の手で縊り殺してやりたいほどにね」 女はキャメル・メンソール・ライトの箱を魔法のランプでも擦るかのように親指でごしごしと触り、やっと一本取り出して火をつけた。 「苦しみがいつ終わるかわから…

100記事記念顔出しツイキャス8月16日16時〜

100記事書けたので記念に顔出しキャスをします。よろしくお願いします。 よかったら遊びに来てください。 ツイキャス日時 2020年8月16日(日)16時〜 ツイキャスアカウント @tsp0jkamo https://twitcasting.tv/tsp0jkamo 話す内容 ・自分やIFについて ・文章…

この世界はすべてノットフォーミーって感じだ

ぼくの大きすぎる独り言にきみは逐一反応してくれるけれど、周囲の人にはやっぱり独り言としか映らない。人間が多すぎる。人間は嫌いだ。会話は嫌いだ。相手の話になんか興味はない。聞いていたくない。もちろん、一緒に過ごすのが心地よい相手は少ないけれ…

別にこの服を着ていなくたって死にたいのはいつものことだった

あの時着ていた服を久しぶりに着た。着心地がよくて、歩きやすかった。冷たい飲み物のボトルの結露を派手にこぼしてしまった。暗い色のせいか目立たなかった。もっと死にたくなるくらいの感情の波が押し寄せるかと思ったけれど、この服を着ていなくたって死…

毛先が痛んで茶色くなった頭をぼさぼさにしたままでうまくもないたばこを吸いながら牌を待ち続けるのだろうか

カウントダウンを始めます。あと三回。大丈夫、何も変わりはしないから。何か変わってくれたらと思うけれど、実際何も変わらない。おかしい。人間は変化する生き物なのにね。きみは? きみは変わらない。 外出している間に自宅のブレーカーが落ちたみたいだ…

アナスイのネイルポリッシュは乾くのが早いから、それを塗って泳ぎに行こうよ

喫茶店が停電するほどの大雨が降っていた。きみはグレープフルーツの果肉がたっぷりのジュースをのんびりと吸っていて、急な停電にも動じなかった。ぼくはというと、スマホでできる麻雀アプリを三時間も遊んでいるところだった。 ぼくは自分を保つために、必…

ぼくはかわいい、みんなそう言う、造形の話じゃない

目を覚ますと、ぼくは軍服を着て田舎道を歩いていた。コンクリートが溶け出しそうな暑さの中、軍服は汗を吸ってどんどん重くなっていく。ぼくは思い切って袖を切った。誰も見ていない。ぼく以外誰もいなかった。油が染み込んだみたいな暑苦しい濃いグレーの…

死にたいから特に欲しいものはない、でも駅前のビジネスホテルには泊まりたい

死のうと思う。そのわりには、12月までに痩せると意気込んでダンベルを購入していたりする。たぶん数日後には死んでいると思う。ただ、一週間で食べ切る量のピクルスを漬けたりしている。 死にたいから特に欲しいものはない。でも、駅前のビジネスホテルには…

きれいな殺し方を知らないなら刃物なんて持つものじゃない

きれいな殺し方を知らないなら刃物なんて持つものじゃない。腹に横一文字にえぐられた傷を押さえる者の気持ちなんて想像できないのだろう。傷は灰色に腐り、周りを虫がたかっている。ひどいものだとぼくは恨む。 ぼくは計画を練る。ぼくは殺し方を知っている…

彼女には空想することや魔女になるために必要なことを教わった

手を合わせて阿弥陀の顔を窺うことに本当に意味があったらいい。悼みたい人の名前を日々指でなぞることで何か変わればいいと思う。ラピスラズリの数珠にアクセサリー以上の意味を持たせるのは自分しかいないのだろう。身を投げ出して祈れば、狂おしいほどの…

ぼくは日本の夏に長袖しか持たずにやって来た観光客みたいだ

みんなが言っていることはわかるよ。それが通常の話だと思う。ぼくが間違っているということもわかる。ぼくは日本の夏に長袖しか持たずにやって来た観光客みたいだ。その上、ユニクロにもGUにも気に入る半袖がない。きみはぼくを止めるためなら幽霊とだって…

きみはアンパンマンのマーチで上下運動を繰り返す

こんなところに置き去りにして、一体何を考えているんだろうか。空気の流れが澱んでいるし、まばたきしても視界はクリアにならない。きみはぼくに心肺蘇生を試みている。 でもぼくは生きている。取り残されてしまったけれど、生きている。言っていて自信がな…

愛って何?愛はね、あなたの名だ、あなたの名前そのものが愛だ

愛している、愛している、愛している、どう伝えたらいい? あなたにいつか出会いたいと思って、あなたにいつ見初められてもいいように着飾って生きてきたけれど、あなたがぼくを知ることはない。ぼくを認識することはないんだ。あなたを愛している、愛って何…

心に実体があるのなら、一番尖った部分を終電の座席に置き忘れてしまったに違いない

心を傾ける、他人に心を割く。親愛をもって、明るいポピーの咲いた封筒を買う。ペンを執って宛名を書く。心のしるしがついた便箋を丁寧に折る。届け先がこれを読むところを想像する。できる。この手紙は相手を傷つけない。読みながら、きっとぼくに心を寄せ…

神さま、美味しいお食事をありがとうございます、大きくなるためなんでも食べます

その人があまりに美しく立っているので、ぼくは彼女が苦しみ続けていたことにずっと気づかなかった。そうだったんだ。そっか。彼女のことをこんなに愛しているだなんて言っておきながら、ぼくは核心を知りもしないで憧れていたんだ。 神さま、美味しいお食事…