レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

ぼくはかわいい、みんなそう言う、造形の話じゃない

目を覚ますと、ぼくは軍服を着て田舎道を歩いていた。コンクリートが溶け出しそうな暑さの中、軍服は汗を吸ってどんどん重くなっていく。ぼくは思い切って袖を切った。誰も見ていない。ぼく以外誰もいなかった。油が染み込んだみたいな暑苦しい濃いグレーの一本道と、爆ぜるような黄緑色の草っ原、それ以外なんにもなかった。

 

冷蔵庫が突然現れないかと期待したけれど、標識の一本すらこの道には置かれていないみたいだった。きっとこれは寝苦しい明け方に見た夢に過ぎないのだとぼくは思った。遠くに足のない女が立っているのが見える。友情出演というやつだろう。普段見る悪夢よりはずいぶんましだった。幽霊はぼくがぎりぎりたどり着かないペースで遠ざかっていく。埒が明かないので、試しにきみを呼んでみた。きみは水槽の中を覗き込むように、空からぼくに手を伸ばした。

 

きみはぼくがかわいくて仕方ないみたいだ。そうだ、ぼくはかわいい。みんなそう言う。造形の話じゃない。ぼくはどうにも生きるのが下手くそなくせに周りにうまく頼ることも嫌いで、そんなぼくにみんな構いたがるのだ。それっていつまでだろうとぼくは思う。今日を限りにみんなが解散しても、ぼくはそこまで戸惑わないと思う。他人から気まぐれに与えられる情けをもっと大事に思える人間だったら、ぼくは今こんなことにはなっていないはずだ。

 

腹痛で今度こそ目覚めた。最終的に、どこへ行けばいいんだろう。ここはどこなんだろう。どこでもないところに行きたい。せめてきみを連れて遠い場所へ旅できたらよかった。知らない街の知らない坂道を上って、きみと鈍行の中で読んだミステリー小説について語って、サイダーを片手に暗闇を危なっかしく歩きたい。