レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

別にこの服を着ていなくたって死にたいのはいつものことだった

あの時着ていた服を久しぶりに着た。着心地がよくて、歩きやすかった。冷たい飲み物のボトルの結露を派手にこぼしてしまった。暗い色のせいか目立たなかった。もっと死にたくなるくらいの感情の波が押し寄せるかと思ったけれど、この服を着ていなくたって死にたいのはいつものことだった。別にこの服を着るのは大したことじゃなかった。ぼくはレモン味のジュースを片手に、あの日被ったのと同じ帽子を被ってきみに笑っていた。

 

派手に濡れても、一瞬で乾くような陽気だ。きみはぼくをシーソーの真ん中にそっと乗せるみたいに扱ってくれた。当然、シーソーだからぼくはすぐに傾いた。それでもぼくはきみの言うことを素直に聞いて、薬を飲んだし、高い高い空の青さをきみに伝えようとした。きみはバッグから保冷剤を出し、タオルに包んでぼくの首に回しながら、ぼくのうまくも面白くもない話をうんうんと聞いた。ぼくはそれでよかった。きみがぼくの話を聞いてくれることが何より嬉しくて、体温と同じ温度の涙を周りを気にせずに流した。それだって、じゅっという音がしそうなほどすぐに空気に還っていった。

 

電飾がきれいだった。きみは夜の濃紺の空も好きだったけれど、こういう灯りも好きだった。きみがそう言葉にしなくたってぼくは昔から知っていた。きみがぼくを知っているように。

 

顔も頭も体も汗でぐちゃぐちゃだった。きみは何度もシャワーに入るよう勧めた。ぼくは動かなかった。美しい紫色のドレスを着たかった。それなら、体をきれいにしないとね、ときみは言った。結局はきみの言うことを聞くことになるのだ。それが一番いいんだ。大きな白い建物をレンズ越しにきみが覗き見た、そんななんてことない写真を撮れたので、今日は満足するべきなんだと思う。