レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

浅草で見た紫色の帯を買ってさえいれば

むかし覚えた落語のひとつは最初の一、二分だけ今でもそらで言える。続きが声にならないのがなんとも物悲しくて、口ずさんでも誰にも届くことなく消えていく。青い着物も、好みの帯が見つからないことを理由に何年も着ていない。いつだか浅草で見かけた紫色の帯を買ってさえいれば今日も着ていたのかもしれない。そんなわけはないのだ。

 

いつもの散歩ならイヤホンをつけたまま川沿いを歩くのだけれど(WEEKDAY)、今日はなんだか暑苦しくて白いイヤホンを腰にぶら下げたままとろとろと歩いた。鳥の声が喧しく響いていた。きみは白い雲の中でも、暗いグレーの雲の塊を指差して、あれにのろうよとぼくを誘った。空飛ぶ絨毯を操縦するみたいにぼくたちは雲に正座して乗っていた。雲の上は風が冷たく強く、乗った雲はすぐにでも散り散りになってしまいそうだった。

 

昨日の夜、きみは何て言ったっけ。

 

ぼくがいけないんだ。一日を上手に使えないぼくがいけないんだ。きみは何にも悪くないんだ。惨めに泣いているぼくが滑稽なだけなんだ。足が冷えきっている。

 

明日は本屋に行こう。きみと本棚をぐるぐると巡って、好きなだけ本を買おう。そしてぼくは家に帰り、きっとどの本も気に入らずベッドの上に倒れている。きみはぼくを起こそうともしない。ぼくはじわじわと生きることを手放して、いつかきみを殺す。そうしたくはないのに。