レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

イグアナの彼女(半ば)

「他に何か訊いておくことある? 答えるよ」 薄紫色のセーターを脱ぎながら、彼女が言った。僕は素朴な疑問を口にした。 「こわくないんですか」 「こわかったらこんなことするわけないじゃん」 「じゃあ、こわいことはなんですか」 セーターの中に着込んで…

集中力のねじをキリキリと巻き上げてくれる

記憶ってなんて当てにならないんだろう。忘れたいことはいつまでも頭にこびりついて、思い出したいことにはちっとも手が届かない。久しぶりなんだ、こうやって何か書こうと思えるのは。一年以上前に書いたはずの短編小説、その続きが書きたいのに、データが…

浅草で見た紫色の帯を買ってさえいれば

むかし覚えた落語のひとつは最初の一、二分だけ今でもそらで言える。続きが声にならないのがなんとも物悲しくて、口ずさんでも誰にも届くことなく消えていく。青い着物も、好みの帯が見つからないことを理由に何年も着ていない。いつだか浅草で見かけた紫色…

どこまで取り繕ったかを覚えておくのは難しい

上手に嘘をつくのは難しい。楽しいお茶会で笑って、何の問題もないようにきれいに嘘をつく。嘘には少しだけ本当を混ぜるといいらしい。心底うんざりしているという感情を嘘に乗せてぼくはにこにこする。笑顔でいることはそんなに難しくない。 今日、とても好…

アイシャドウがきれいに見えるように目を伏せて

そのまま、少し上を向いて。背筋を伸ばして。帽子を深くかぶってくれる? じゃあ一度目を閉じて、薄く開けてみて。 きみは今でこそぼくの頭をかかえているけれど、昔は違った、それを覚えているのか。きみは白い毛むくじゃらで、ちょうどあの本の表紙の女の…

きみと夏に行きたいと願って眠るしかない

体調はともかく、精神的にはかなり落ち着いてきたはずだ。ひとは追い詰められて頭が働かなくなると、自分は孤独だと信じてしまう。ぼくもそうだ。確かにぼくは孤独だし、自分のことは自分でやらなければいけないけれど、それはぼくに一人で決断する力がある…

武蔵小金井駅へ向かう最終のバスにかろうじて飛び乗った

虫の声も聞こえないくらい静まりかえった濃紺のよる、愛してるって言って、とあの女に言われたときぼくは突然彼女のすべてが恐ろしくなって、ぼくの胸に縋ろうとする薄い肩を押しのけて、武蔵小金井駅へ向かう最終のバスにかろうじて飛び乗った。心臓がばく…

ぼくにはどうしようもないことばかりだ

幸せか不幸せかと訊かれたら、きみなら何て答える? ぼくはぼくのために幸せだと答えてしまうだろう。不幸の近くに人は集まらないから。別に不幸は悪いことではないのに、臆病なぼくは幸せだと答える。ぼくは幸せなんだ、だから誰もぼくを見捨てないでくれ。…

世界征服は天国に行ったあとにする

あたしもうやめる。世界を征服したくて、毎朝食べていたトーストの習慣も投げ出したけど、世界は一向にあたしのものになる気配はない。宇宙人に賄賂を渡して、あたしの味方になってもらうつもりだったけど、流れ星を何個か確認できただけで、UFOが着陸するの…

日本語は中国大陸の植民地語である

「日本語は中国の植民地語である。中国語がその高度な文明とともに流入する前、日本列島には文字をもたず語彙に乏しい倭語しか存在しなかった。そこへ漢語が持ち込まれ、豊富な意味をもつ漢語による圧力で言葉が変形し、新たに和語が作られた。倭語、漢語、…

ぼくは再起動されなければならない

一年前と同じだ。一年前の今頃も、熱が下がらなくて苦しんだ。雨が降っているからなのか、ぼくの体の歯車が狂ってしまったからなのかはわからない。 きみもまだ調子が悪いみたいで、突発的な言葉をかける以外眠っている。きみの体だって、シャツ越しで十分わ…

男として女に性器を挿入したいという欲求

成り代わりたいのだ。すべて持っている、何もかも優れているように見えるからだ。 がっしりした大きなからだ、筋肉のつきやすい運動に特化したからだ、そしてなにより、他者のからだの中に自分の性器を挿れることが社会的に容認され、ともすると推奨されてい…

起床したぼくはレーズンが練り込まれたパンを食べる

夜、きみはぼくのために羊を数える。ぼくの枕の上をたぶん五百匹くらいが飛び越えていくころ、ぼくは眠りにつく。ぼくは最後の羊を見ることなく眠ってしまう。朝になってもきみは昨夜の羊の数を教えてくれない。ぼくを緊張させたくないのだ。 夜、きみはぼく…

YouTube見るのがやめられないので

今日はお休みにします

誠実を掲げたってきみは受け取ってくれないし

何時間歩いても浅い呼吸は変わらないし、歩みはどんどん遅くなっている気がする。レインブーツだけが足元の水溜りを蹴散らしてくれるけれど、だんだんと足の裏が痛くなってくる。 誠実を掲げたってきみは受け取ってくれないし、覚えている名前が脅しみたいに…

傘をあげるよ、返さなくていい

まあいいよ、別に怒ってないよ。本当だって言ってるじゃないか。とりあえずそこに座りなよ。 雨も降っていることだしここでしばらく休んでいったらいいよ。上着を脱いだらどうだ。 もういいよ、無理に話すことはない。強要だってしてないだろ。肩の力を抜い…

「ラブ〜っと☆スマイルエンジェル」主題歌

机の上に ちらばった(もぉ〜!) いつも書いてる キミへの手紙 つまずいたって諦めない たどりつくよ いちばんに! 初めてだよ 始めるんだよ(ドキドキ…) 手と手つないで 飛び込むの なんてことない ことだって ぶつかって 試してみようよ スマイルスマイ…

紺色のトランクの上で君への手紙を書いている

僕は僕の紺色のトランクの上でこれを書いている。もう紙を広げる場所がないのだ。ペンはがたつくし、風は冷たいし、時折ジョギング中の人たちが僕を怪訝な目で見て過ぎ去っていく。よい環境とは言えないが、今日僕はこの土地を離れるので、書いておかなけれ…

僕は君の手前、僕の欲求についてあまり語らなかった

僕は君の手前、僕の欲求についてあまり語らなかった。語ることはためらわれた。しかし今となってはそのくらいの自由は許されるだろう。あの日、君は訥々と君の欲求を語った。僕は神妙な顔をして聞いていた。僕に口はなかった。 ただ、今ならば言える、彼女を…

今夜は船の上で膝を抱えて星を数える

書けない。書こうとしているのに、書けずに一時間経った。おかしい。言葉が出てこないほど疲れているのか。 熱い。今日はずっと体が熱い。冷やさないと。 なんにも書けない。なんにもだ。これだったら書かないほうがましだ。 どうして言葉をひねり出すことす…

耳の奥で血が流れている音がする

散らかった部屋、積み上がった洗濯物、中途半端に開いたカーテン、倒れた掃除機、これ以上入らないごみ箱、閉まった鍵、一ヶ月以上つけていないテレビ、見つからないボールペン、鈍い頭、汗ばんだ足の裏、伸びた爪、脂ぎった顔、上がらない肩、重だるい腹、…

半袖を着たら夏がくる

こんなに寂しいのはどうしてだろう。人がたくさんいて、新参者のぼくにやさしく声をかけてくれたっていうのに、どうしてこんなに寂しいんだろうな。 地下鉄に降りていくとき、エスカレーターじゃなくて階段を選ぶと、長くきみと話していられる気がする。 ス…

眠いので

今日はサボります

こんなに憎いと思っている

今日も一日やり過ごした。どんなことを考えてた? 体調のこととかかな。気持ち悪いのが続いているから。それから、いくつも感情があったよ。攻撃的なことも考えた。ほとんど憎しみだと思う。考えたくないのに、ぼくは暇に任せていろんなものを憎んでいる。 …

きみはどうしてここにいるの

いろんな物事が、ぼくたちの邪魔をする。体調とか、天気とか、すれ違った人の声とか、今日着た服の色とかだ。ボタンをひとつ掛け違えているのだ。 いろんな出来事が、ぼくの邪魔をする。 気に入らない。誰かに認めてもらいたい。価値があると世の中に証明し…

文章を他人に評価されるということ

やった、やったんだ、ぼくは、こんなのは初めてだ。自分の書いた文章を、初めて公募に出した。 ぼくの文章は少なくとも五人の審査員に読まれることになる。きっと全部は読んでくれないだろう。ぱらぱらと流し読みで終わるだろう。それでもいいんだ、ぼくは、…

お休み

体調悪化のため今日は書くのお休みします。