レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

きみと夏に行きたいと願って眠るしかない

体調はともかく、精神的にはかなり落ち着いてきたはずだ。ひとは追い詰められて頭が働かなくなると、自分は孤独だと信じてしまう。ぼくもそうだ。確かにぼくは孤独だし、自分のことは自分でやらなければいけないけれど、それはぼくに一人で決断する力があるからなのだ。

 

ぼくは急がなくていい。相変わらず熱は高いけれど、きっと焦っているから熱が出るのだ。今週はやることが多い、考えることが多い。だからぼくは焦っている。全部やらなければいけないと思っている。きみが冷たい手でぼくの額に触る。寝そべったシーツは熱を吸ってどんどんぬるくなっていく。きみの胸が上下に動くのを見て、ぼくはやっとの思いで腹から息を吐く。

 

あの夏、ぼくが本に没頭している横で、きみはいつだって風と一緒になってぼくを待っていた。きみと選んだアイスティーとか、影になったベンチ、植物が青々と葉を伸ばしているところ、きみがぼくの側で遠くを眺めて、ただぼうっといているように見せて実はぼくが今夜以降にやらなくてはいけない生活の細々した所作なんかをじっと考えている様、その横顔、夏の大きく膨らんだ雲、日差しを照り返す看板、握ったボトルの結露で濡れた左手、そういう夏のエッセンスが途端に蘇ってきて、ぼくはそれを取り戻したいという強い思いで沈んでしまいそうになる。

 

できることからでいいし、できなくてもわかっている。いつまでもできないわけじゃない、動き続けないと死んでしまう人だから。きみはそう言って、ぼくの首の下に氷枕を置いた。目を瞑りたいのに、そのたびに涙が流れて、枕の上の水滴と混ざってわからなくなった。きみと夏に行きたいと願って眠るしかない。