少し楽しい話をしようか、ここのところ疲れていただろうから
そうだなあ、ときみはぼくたちの部屋の大きな窓から空を見上げた。
ああそうだ、あの帽子は?覚えてる?
うん、ちゃんと覚えてる。夏のお帽子でしょ。ぼくは答える。
あれをかぶって行きたいところはどこ?
川沿いを歩きたい。ショッピングモールに行きたい。高いビルに上りたい。それと、それとね、
ほらだめだよ。きみが笑う。今は楽しい話の時間でしょう。今、一緒に行きたい人のことを考えたね?
やっぱりきみには何も隠すことはできないんだな。
きみは夕暮れの中、ぼくだけを見てにこにこと笑った。楽しいことを考えようよ、とぼくを鼓舞した。それでもぼくはずるずると泣きたがる。それでもいいよ、いつまでもどこまでも付き合うよ、でも今は質問に答えてよ。何がしたい?どこへ行く?何を食べようか。何を見る?二人で何をする?
どうしてぼくはここで横になっていることしかできないんだろう。
それは答えじゃないなあ、ときみが窓を開けた。風はちょっとだけ冷たかった。きみの髪が靡いた。
じゃあ宿題だね。膨らむカーテンを抑えて、きみはやっぱり笑った。そうやってきみはどんなぼくでも受容する。それが嬉しくて、いびつなような気もして、今日も痛い。楽しい話は次回にお預けだよね。今だって楽しいよ、こんなの平気なんだよときみは言った。