レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

黒いワンピース

欲しかったの。

 

きみが、ワンピースを着なよって言った。絶対似合うよ、これなんかどう、って指さした、その指先から花びらが溢れた。たくさんの白い花は黒いワンピースに吸い込まれてちらちらと瞬いた。ぼくはそれを手にとって、試着室へ持っていった。

 

おねえさんはびっくりした表情で花びらがはらはらとこぼれ落ちるワンピースを受け取って、それを試着室のハンガーに掛けてくれた。

 

大きな鏡にぼくときみが映った。きみには自信があって堂々としていた。ぼくはなんだか縮こまって、貧相に見えた。でもきみが促すから、白い花の黒いワンピースを頭から被った。

 

ワンピースはぼくにぴったりだった。なぜか、いつのまにか、ぼくまで堂々と立っているようだった。一房、爪先に落ちた花を、きみは拾ってぼくの胸元に置いた。花はじわりと黒い生地に吸い込まれていった。

 

このワンピースを着て、あの帽子を被って、広い空のあるところへ出かけよう、それがきっと一番いいよ、明るいものを見に行こう、みじめなんかじゃないよ、ほら歩いて、もう泣かないで、全部全部わかってるから、ときみはまた指先から花をぼくに与えた。