レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

アイシャドウがきれいに見えるように目を伏せて

そのまま、少し上を向いて。背筋を伸ばして。帽子を深くかぶってくれる? じゃあ一度目を閉じて、薄く開けてみて。

 

きみは今でこそぼくの頭をかかえているけれど、昔は違った、それを覚えているのか。きみは白い毛むくじゃらで、ちょうどあの本の表紙の女の人に抱かれているのと同じような容姿をしていた。ぼくの砂遊びを中断させたのはきみだった。

 

後ろを向いて、こっちを振り返って。目は伏せて、まぶたのアイシャドウがきれいに見えるように、それからこっちに視線を寄越して。

 

のっぴきならない理由でぼくは深夜のコンビニに向かう。サンダルをわざと水たまりに突っ込みながら歩くと、きみが嫌そうにぼくの足元を見る。家に帰って足を洗うのをきみに押し付けると思っているのだ。大丈夫、今日は家に帰らないし、明日の朝日が昇る頃、荒川の流れで汚れを落とすから。眩しい光に肌を焼かれながらやっとの思いで家に帰ろう。

 

あごを上げて、体の正面をこっちに向けてみて。少し歩いて、風はそのままにして。シャツが吹き上がっても構わないから、ゆっくり帽子を取って。

 

スマートフォンの充電がなくなった。突然切れた音楽がぼくの耳にこびりついている。急にあたりに漂いだす沈黙を耳鳴りが上書きしていく。光らなくなったスマートフォンを放り出して、本棚から小説や漫画を数冊引き出したぼくを、きみは柔らかく止めた。でも眠くないよ。何かやっていないと不安なんだ。きみはぼくを宥めて布団に入れる。左目からだけ涙が流れていた。きみはあの歌を歌い出す。ぼくはどうしても悲しい気持ちになって、きみの揺れるような歌声を聞いていた。きみに隠れて舐めた涙は塩辛かった。