レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

自転車が揺れて、また真っすぐに走り出したときの、あの感じ

突っ走って一日が終わった。から回って疲労だけが残った。顔がべたべたしていた。

 

ただ、自転車を漕いでいる間だけはきみがぼくを乗っ取ったように元気に振る舞って、全部元通りになるよとか、こんなの大丈夫だからねとつぶやきながらうちに帰った。左手首につけた香りをかいだ。みじかい産毛が唇に触れた。

 

もう、今日はこれでいいんじゃないかな。

 

酢につけるはずだった胡瓜もパプリカも、冷蔵庫に転がしてしまった。でももういいや。全部明日だ。きみは眠そうだ。涙でべたべたの顔は今日中に洗ってしまおうか。手伝えないけどできる?ときみが訊いたので、できるわけないよと答えておいた。

 

日が暮れる。青白い光が窓の周辺に漂っている。今日はもうおしまいだ。だからといって、ぼくまでおしまいの章ってわけじゃなかった。本当はおしまいにしてしまいたいけど、赤い自転車に二人で乗って、帽子がびゅんと飛ばされそうになった瞬間のぼくときみが慌てた感じ、それを左手で押さえて、車輪がぐらりと揺れてまた真っすぐに戻る、その一瞬だけで今日は生き延びよう。