きみはどうしてここにいるの
いろんな物事が、ぼくたちの邪魔をする。体調とか、天気とか、すれ違った人の声とか、今日着た服の色とかだ。ボタンをひとつ掛け違えているのだ。
いろんな出来事が、ぼくの邪魔をする。
気に入らない。誰かに認めてもらいたい。価値があると世の中に証明したい。放っておいてほしい。
髪の毛を乾かさないといけない。赤いランタンの灯だけで眠る。きみのほくろを数える。壁に貼った写真を眺める。洗濯機に柔軟剤を入れる。だめになったしめじを捨てる。帽子をかぶった自分を鏡に映す。洗面台で嗚咽する。髪の毛をつまんで捨てる。何も身につけないで布団に入る。……髪の毛を乾かさないといけない。
好きな作家の本が並んだ本棚。
狭い世界。せかいは狭い。ぼくは、狭い世界は嫌いだ。
おでかけしたい。誰にも見られたくない。きみとブランコに乗りたい。
誰にも見られたくない。誰かに見てもらいたい。叫びたい。指をさされたくない。誰かに殺してもらいたい。きみを死なせたくない。薬を飲んで眠りたい。薬なんか全部捨ててしまいたい。誰にもわからないと思いたくない。誰にもわからないだろ。誰かのことなんてぼくにもわからないんだから。だからきみだけが変なんだよ。きみはどうしてここにいるの……。