レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

世界征服は天国に行ったあとにする

あたしもうやめる。世界を征服したくて、毎朝食べていたトーストの習慣も投げ出したけど、世界は一向にあたしのものになる気配はない。宇宙人に賄賂を渡して、あたしの味方になってもらうつもりだったけど、流れ星を何個か確認できただけで、UFOが着陸するのを見たことはなかった。

 

そんなことより、あたしには神様ができてしまった。六組の児玉さん。あたしとあの人はグラウンドで出会った。出会ったと言っても、あたしが児玉さんを見つけただけなんだけど。助走をつけて宙をとび、弧を描いて砂に着地した彼女はまるでギリシャ神話に出てくる神様みたいだった。それかエジプトのファラオだ。彼女のためにも、本当はあたしが世界を手に入れて、求愛のために差し出したかったけれど、そんなことを言っている暇はなくなった。

 

彼女に気付いてもらわなくちゃいけない。あたしは信徒だから、彼女が大きく広げた手の中に入りたい。彼女がちらとでもこっちを向いたらいいのに。廊下ですれ違っても、彼女はお喋りをしていてあたしに目もくれず去っていく。

 

あたしもうやめる。鏡を割るのをやめる。何もかも気に入らなくて、拳に血が滲むのも気にせず、大きな鏡を叩き割っていたけれど、彼女に差し出す手が血塗れじゃ怖がられてしまう。あたしの神様にそんなことをしてはいけない。

 

神様に黄金の仮面を献上したい。宝石を鏤めたきれいなマスクだ。……次の音楽の授業は六組と合同だ。席は自由だから、神様の近くに座れるかもしれない。神様の歌を近くで聴いたら、きっとあたしは天国行き確定だ。世界征服は天国に行ったあとにする。今は神様を追いかけるので忙しいから。