レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

起床したぼくはレーズンが練り込まれたパンを食べる

夜、きみはぼくのために羊を数える。ぼくの枕の上をたぶん五百匹くらいが飛び越えていくころ、ぼくは眠りにつく。ぼくは最後の羊を見ることなく眠ってしまう。朝になってもきみは昨夜の羊の数を教えてくれない。ぼくを緊張させたくないのだ。

 

夜、きみはぼくのために歌を歌う。遠い異国の歌だ。きみはぼくの額を撫でる。声の震えが伝わって、きみも不安だということをぼくはわかっている。その歌は、「すべてが良くなるはずだから」と締めくくられ、眠くないけれどぼくは目を閉じる。

 

夜、ぼくはきみと空を飛ぶ妄想をする。ぼくたちは雲の上をステップし、右から二番目の星を目指す。きみはぼくの手を離さない。きみの新しい真っ白なシャツが冷たい風に激しくなびいて音を立てる。ぼくはエナメルの靴を片方、ぎらぎら輝くビル群へと落っことしてしまう。ぼくたちはぐんぐん加速して、息もできないくらい高いところで踊るのだ。きみの瞳、まつげに縁どられたその瞳が星々を反射する。靴を脱いでしまった右足が、急にぼくを地上へ引っ張って、ぼくはきみに助けを求めて叫ぼうとする。

 

朝、起床したぼくはレーズンが練り込まれたパンを食べる。ミネラルウォーターで薬を飲み、歯磨きをして顔を洗う。ぼくは鏡に映る自分を見て、何も変わっていないことに失望する。きみはまだベッドで眠っている。ぼくは鋏を手に取って、肩まで伸びた髪の毛を切り落とす。