レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

誠実を掲げたってきみは受け取ってくれないし

何時間歩いても浅い呼吸は変わらないし、歩みはどんどん遅くなっている気がする。レインブーツだけが足元の水溜りを蹴散らしてくれるけれど、だんだんと足の裏が痛くなってくる。

 

誠実を掲げたってきみは受け取ってくれないし、覚えている名前が脅しみたいに口から飛び出そうとする。もう呼んではいけない名前があることはぼくもわかっていて、彼らを起こさないことでこの凪を守らなければならなかった。

 

やっとの思いでたどり着いた喫茶店は臨時休業で、空に向かって口を大きく開けたい。土砂降りだったらよかったのに。トラックが大きな泥水の池に片輪を勢いよく突っ込んで、ぼくの膝を濡らした。きみは薄い灰色の空の向こうを見ていた。雨は止もうとしている。

 

怒りの根源は寂しさだなんてとっくに知っていることを教えないでほしい。きみといて寂しいわけがないのに、おかしなことを言うのはやめてくれ。まっすぐ走らない自転車は漕ぎ手じゃなくて自転車のせいにすればいい。道路に突き出してくれよ、こんな田舎道でも一台くらいは轢いてくれるだろ。

 

名前を呼んでしまいたい。大丈夫、きみが心配するようなことにはしない、彼らを呼ぶことはない。だけどぼくは覚えているんだよ、彼らと寒さに震えた瞬間、ベンチで動けないままパンの匂いをかいだ瞬間を。

 

息が上がる。レインブーツはずいぶん久しぶりに履いたからか、足が痛くてたまらない。傘をうつ雨がもうないことにしばらく気づかないまま、ぼくは歩き続けた。憂鬱だ。これからもずっと、きみがいてくれるというのにぼくは憂鬱で寂しい。正直を掲げたってきみは薄く笑うだけだし、手を離してはくれない。