レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

広げた腕の中にしぶしぶ体を預けて、吐いたワインできみのシャツを汚す

紅茶の話をしてほしい。ぼくの知らない茶葉の話、かいだことのない温かい香りの話。専門店へ行って、何を頼むのかとか、店員とどんな話をするのかとか、教えてほしい。ぼくはあなたの膝の上に頭を乗せて、あなたを見上げて話を聞きたい。

 

色の話をしてほしい。どんな色が自分に似合うのかとか、どんな色が今の自分の心を表すのかとか。あなたの好きな色を教えてほしい。紫陽花の紫? それともアメジストの紫? あなたがその色に何を託すのかを知りたい。もしかしたら、ぼくはあなたの色のひとつになれるのかもしれないと期待したい。

 

きみはぼくが一通のメールを送信し終わったタイミングで、ぼくの目の前で手を振った。戻ってきてる? きみは訊いた。戻ってきてるよ。ぼくは答えた。頭が痛かった。きみはぼくが夢うつつにいろんな場所で違う女性たちに心を寄せていることに、不安を感じているのだった。そうだよね。だって、ぼくのそれは結局幻覚なんだもの。

 

きみはぼくの願いを叶えてくれない。それはたぶん今のぼくが偽物だからだ。でもほら、きみだって偽物だった二年間があるじゃないか。きみはダリウスだった。彼は裏切りの子だよ。彼はヒョウの子どもで、すばしこくて父親に似ていた。

ごめん。悪かった。だからといって、ぼくが偽物でい続ける理由はなかった。

 

ぼくは同じベッドで眠るきみに、首を絞めてと毎晩お願いをする。これははほとんどきみとぼく自身への祈りだ。真っ白なブラウスを着て、赤ワインを口に含んでこうべを垂れて、ぼくの儀式は間違っていないはずなのに、祈りはどこにも届かず地に落ちる。

 

そう、わかった。今日もわかっている。わかっている? わかってる。広げた腕の中にしぶしぶ体を預けて、吐いたワインできみのシャツを汚す。これでいいんだ。目を閉じればいいんだろう。きみの言う通りにしているんだけどなあ。