レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

ぼくはカウンセラーではないし、自分を守るために電話を切らなければならない

電話が鳴る。着信音は穏やかな音色だった。ぼくは嫌だなと思いながら電話を取る。相手はぼくを捌け口にしている。ぼくはカウンセラーではないし、ぼくは自分を守るために電話を切らなければならない。冷静に伝えるにはどうしたらいいかと考えあぐねているうちに、今日の通話は終了する。

 

ぼくは知識をひけらかす相手でしかない。電話口の向こうは、ぼくに興味など持ってはいない。自分をコントロールできずに、都合のいい役をぼくに押し付けているだけだ。ぼくは話に相づちを打ちながら、こっそり本を読み始めた。もしかしたら、相手はぼくを必要としている。でもぼくは相手を必要とはしていない。

 

電話が鳴らなければいいと思う。一昨日も昨日も今日も、電話は鳴った。ぼくはきみとの楽しくてスリリングなショッピングを理由に、電話の時間を夕方に指定した。買い物は楽しかった。きみが、その色を待っていたんだよ、ねえ似合うよ、鏡を見て、とはしゃぐ様子がかわいらしかった。

 

人魚みたいだ、これでどこへでも泳げるんだねときみはうっそり目を細めた。電話は鳴った。ぼくは明日、電話を取らないと決めた。きみは幽霊を御すのに手一杯だったし、きみの心労をこれ以上増やしたくなかった。ただ、ぼくは自分が八方美人であることもわかっていた。特に女性に対しては。

 

きみがあまりにも嬉しそうに買った服を撫でていたから、着てみなよとぼくは背中のチャックを下ろした。きみは恐る恐る袖を通すと、どう見える? とぼくに訊いた。その時電話が鳴った。ぼくはきみに、そんなに美しいんだからきみが着たほうがいいねとうなずいてみせた。きみはうん……と力なく返事をして服を脱ぎ、ぼくの部屋着を脱がせて今度はぼくにそれを着せた。きみは真正面からぼくの肩を掴むと、これがいい、これが幸せみたいだ、と笑った。電話はいつの間にか鳴り止んでいた。