レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

きみはアンパンマンのマーチで上下運動を繰り返す

こんなところに置き去りにして、一体何を考えているんだろうか。空気の流れが澱んでいるし、まばたきしても視界はクリアにならない。きみはぼくに心肺蘇生を試みている。

 

でもぼくは生きている。取り残されてしまったけれど、生きている。言っていて自信がなくなってきてしまった。生きている? きみはアンパンマンのマーチで上下運動を繰り返す。

 

生きているって、つまり、例えば、鉛筆で文字を書くってことだ。思い立ってケーキを買うということ。グレーのアイライナーを試すこと。ワンピースを試着すること。食事の前にお祈りをすること。赤い自転車を漕ぐこと。ステーキを食べないこと。用もない薬局に入らないこと。マスクの中で鼻水を流すこと。段差に車輪を取られて自転車ごと倒れ、膝を強かに打ちつけること。きみを見上げること。

 

ノートに一番強い望みを書いた、筆跡はきみと酷似していた。全部やめたい。全部やめるのが今のぼくの願いだ。きみは知っているよね。それでもぼくが息を吹き返すのを待ってくれるの?

 

自由になりたい。幸せになりたい、失敗したくない。ぼくを離してくれ。止まる心臓をそのままにしてくれ。全部やめて終わってしまいたいんだ。違う、違う、ぼくをどうにかして生かしてくれ。重たい水の中から掬い上げてくれ。ぼくの足を縛る海藻を切り裂いてくれ、もしくは鋭利な貝殻の破片を手渡してくれ、きみならそれができるだろう。明日も呼吸がしたい。歩きたい。悔いてもいい。いつもどおりのことだから。きみが一緒ならぼくはもうそれでいい。