レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

愛って何?愛はね、あなたの名だ、あなたの名前そのものが愛だ

愛している、愛している、愛している、どう伝えたらいい? あなたにいつか出会いたいと思って、あなたにいつ見初められてもいいように着飾って生きてきたけれど、あなたがぼくを知ることはない。ぼくを認識することはないんだ。あなたを愛している、愛って何? 愛はね、あなたの名だ。あなたの名前そのものが愛だ。あなたを呼ぶ唇が歓喜に震える。あなたの名を形作る喉、口、舌が祝福を受ける。それはつまり愛がそこに存在するってことなのだ。

 

気が済んだ? 今日もぼくの右手にはミネラルウォーターのボトルが握られている。気が済んだ? 足は動く? 動かないね。このまま投げ出したままでいるから、あのトマト色のネイルを塗ってくれないか。どんなにめちゃめちゃでも許すよ。除光液は嫌いだから、ぼくの顔から離れた場所でコットンを湿らせてくれ。

 

どんな色だった? あれに気付いた? 気付いたよ。ぼくの鼻はいいんだ。嗅がなくてもいい匂いを感知してしまうんだ。もうそれの発信源を探して車両をうろついたり、上ってきた階段を転げ落ちるように下ったりしたくないんだよ。そんなの探したってどこにもあるわけない。

 

愛している。あなたが吐く煙で死んでしまいたい。あなたがぼくの棺桶の上に白い花を投げてくれたらいいと思う。でもそんなことはないんだ。あなたがぼくを知ることはない。いい? いいね。そうだね。あなたの口紅をひとつ盗みたい。あなたのポーチの中から、一番初めに人差し指が触れたものを取り出して、ぼくがいたずらしたとわかるようにポーチのジッパーは開けたままで、その場を去っていつもの河川敷まで逃げたい。ぼくは肩で息をして、腰の高さで戦ぐ菜の花に紛れていく。そうして震える手でキャップを開けた口紅は、うっかり右手をすり抜けて、小さな水音を立てて川に沈む。それを拾うこともできずぼくはその場に立ちつくし、あなたと交わらないことをきっと嘆くんだ。