彼女のこと
きみと一緒に彼女がぼくのために祈ってくれていることに気がついて、ぼくは飛び上がるくらいびっくりした。ぼくのために祈ってくれる人が、きみ以外にもいるのだということをぼくはやっと知った。 一番起こってほしくないことを想像した。ぼくの皮膚はたちま…
ほらね、思った通りになるよ。ぼくを揺らすものはないんだ。そんなものは全部殺してしまったから、ないんだよ。 それでどうする? 終わったことを蒸し返すのはぼくの得意技なんだけど、まだ続ける気力があるのかな。彼女のメールに返信して、マイセンの茶器…
麻雀をやっている間だけは、何もかも忘れて、ハツが来たら役牌でいつでも鳴けるのになあとか、うまくソーズを捨てられたなあとか、遊ぶことに集中できた。雀荘の窓際が日焼けしそうな強い日差しを中に取り込んでいたとしても、受動喫煙で肺が汚れていったと…
これはぼくの決意表明で、嘘偽りない話だ。ぼくはあのまま自分を清浄な言葉で覆ったまま切り売りを続けるより、今こうして一人で明日を考えず部屋にいるほうがずっといい。君を不思議な気持ちと、苛立ちと、嫌悪と憐憫で守ろうとするより、彼女の香りを胸に…
恥ずかしくないと思う。ぼくはまったく似合わないオードパルファムをつけて、その香りをマスク越しに嗅ぎながら、ぼくは自分が欲しいものを欲しいと表明することを恥ずかしく思わなかった。 さらさらした手触りのワンピースも、ベルトが銀色に輝くサンダルも…
えっ、とぼくが素っ頓狂な声で驚く様子を、彼女はちょっと気まずそうに見ていた。 ぼくは気が早いことに、彼女と同棲する計画を立てていた。同棲と言っても、彼女の部屋にぼくが転がり込む形でなし崩しに同居を始めるような、そんなずさんな計画だ。でも彼女…
ねえ、ねえ、わかってる? ぼく、自傷行為をずっとしていないんだ。ずっとしていない。一週間は我慢している。その代わりに無花果を毎日かじっている。自転車を三十分漕いだ先のスーパーにそれは売られていて、ぼくは二日に一度無花果を買いに行く。四十八円…
「愛していたんですか?」 「愛していたわ。最後には自分の手で縊り殺してやりたいほどにね」 女はキャメル・メンソール・ライトの箱を魔法のランプでも擦るかのように親指でごしごしと触り、やっと一本取り出して火をつけた。 「苦しみがいつ終わるかわから…
愛している、愛している、愛している、どう伝えたらいい? あなたにいつか出会いたいと思って、あなたにいつ見初められてもいいように着飾って生きてきたけれど、あなたがぼくを知ることはない。ぼくを認識することはないんだ。あなたを愛している、愛って何…