レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

今やぼくに涙を流させるのは彼女の名前だ

ねえ、ねえ、わかってる? ぼく、自傷行為をずっとしていないんだ。ずっとしていない。一週間は我慢している。その代わりに無花果を毎日かじっている。自転車を三十分漕いだ先のスーパーにそれは売られていて、ぼくは二日に一度無花果を買いに行く。四十八円のミネラルウォーターのボトルも二本一緒にカゴに入れる。

 

どうもぼくは食べる行為が下手くそみたいで、この無花果も毎日シャツを汚す。薄赤色が手に、口に喉に、

 

歌うと泣いてしまう歌を歌ってみたけれど、涙は流れなかった、でもまるで泣いているように声を震わせることはできた。ぼくもずいぶん上手になったものだ。きみは自嘲と嘘をやめてほしいとぼくに頼んだ。包丁を洗おうと洗剤に手を伸ばすぼくの後ろで、きみはHome Sweet Homeをゆっくりと歌った。

 

天啓を受けるふりをしてしまう。はっと顔を上げて、瞳をらんらんと狂気に輝かせ、何か高尚な存在から言葉を授かったふりをして、きみを困らせる。ああぼくは死んだほうがいいんだとか、今すぐお気に入りのナイフで一番近い皮膚を切り裂きに電車に乗ったほうがいいんだとか、裸足で大通りへ出て、紺色の車を見つけたら、助手席に乗り込んだほうがいいんだとか、そういう天啓だ。

 

醜い気がするんだ、これは一昨日からだよ。ぼくの鼻と、目と、唇。眉。あの人は一笑に付すはずだけど。あの人は私を見てよって、他でもないぼくに言ったんだ。きみはあの時もぼくの後ろに立っていたね。彼女を思うと、ぼくは故郷に帰りたくなってしまう。そう、今やぼくに涙を流させるのは彼女の名前だ。時間というのは、人間というのは、すっごくくだらなくて単純でよくできている。知っていた? 彼女の名は、命という意味なのよ。