レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

洗面所でタオルに顔を押しつけてきみを呼んだ

きみはあんなに眠そうだったのに、ぼくがわあわあと泣き出したのを見るや否やすっとんで来た。眠いんでしょ、ほっといてよと押しのけようとしてもびくともしなかった。眠くないよときみは言った。眠いけど、一番大事なことはちゃんとわかってるよと言った。

 

きみはぼくの頬を叩いたり、肩をさすったり、背中にぴたりと張りついたり、それはもう全力でぼくを宥めた。ぼくの顔は涙と鼻水で今日もぐちゃぐちゃで、鼻の奥、喉の奥も塩水が詰まったように痛かった。

 

どうして泣いているのかというと、やっぱり自分が嫌いだからだ。許せない。自分自身が、自分の許容範囲外だった。変わろうと努力もせずただ衝動のまま泣いていること自体、嫌悪していた。

 

きみは、絶対にそんなことはないと強く断言した。そんなことというのは、ぼくが、このままぼくを許せずにごろごろと泥の中へ落ちていくようなことを指すのだと思う。そんなことは起こりえない、そうはさせない、ときみは言う。ぼくは意地悪く、何の根拠もなく楽天的に言いやがってと思う。きみはすかさず、根拠はないけど二人でいる限り、大丈夫なんだよとぼくを揺さぶった。

 

大丈夫ってなんだ。何が大丈夫だと言うんだ。この状況の、ぼくの今の、どこを切り取っても大丈夫だなんて形容できるはずがないじゃないか。きみの言葉に少しだけ心が緩まったのを隠して、ぼくはわめき続ける。それをわかったうえで、きみはぼくに大丈夫だと言う。染み込むように、擦り込むように、痛みに塩を塗るように、でもそれは必要なことだった。

 

真っ赤になった顔を冷水で洗った。涙は熱いから、洗いながらもまだ自分が泣いていることを指先で確認した。きみは冷たい水の中に手を入れてみせた。きみの手はそんなに大きくなくて、水中で遊ぶきみの指を、ぼくはかわいいなと思った。そう思えるくらいには落ち着きを取り戻していた。

 

今日もきみの手を煩わせてしまった。自己嫌悪。嫌いだ嫌いだ嫌いだ。だから、そうじゃないんだってば、と、ぼくの硬く握った拳を、きみが開こうとする。気を失ってしまいたい。