レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

ぼくは日本の夏に長袖しか持たずにやって来た観光客みたいだ

みんなが言っていることはわかるよ。それが通常の話だと思う。ぼくが間違っているということもわかる。ぼくは日本の夏に長袖しか持たずにやって来た観光客みたいだ。その上、ユニクロにもGUにも気に入る半袖がない。きみはぼくを止めるためなら幽霊とだって手を組む覚悟を決めたようだった。ぼくからサングラスを取り上げて、日陰に行かないのと挑発する。

 

日陰なんてどこにもないじゃないか。ぼくの住んでいる和光市では、県からのお触れですべての樹木が伐採されてしまった。公園から住宅街の中の小さな庭に至るまで、ぼくを追い詰めるためだけに日陰をつくるものは全部が撤去されてしまったのだ。

 

だめ? こんな嘘だめ? いいじゃないか。実際日陰は見つからない。ぼくはぬるく、ほとんど熱くなった水を飲む。ぼくは保冷機能のついた水筒などは持たない。洗う自信がないからだ。蝉が転がっている。死にかけの蝉は嫌いだ。夏は、夏は嫌いだ。日焼け止めも嫌いだ。きみはスポーツトレーナーだ。ぼくに水や食べ物を補給させ、日差しに苦しみだすと場所を変えるようアドバイスする。そう。きみが正しい。

 

幽霊は相変わらず怒っている。ぼくが軽率な決断をするふりをするたび、それに引っかかって怒っている。幽霊を振り回しているぼく。自嘲しかできない。

 

呼ぶこと自体が愛になる名前をいくつも知っている。幸せなことだ。列挙してみると、全部女の名前だった。幸せなことだ。思い出してはいけない名前もある。呼ぼうと口を開くと幽霊が音もなくやってきて、冷たい人差し指をぼくの唇に当てた。たぶん幽霊のせいで、肩も首も重い。