レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

彼女には空想することや魔女になるために必要なことを教わった

手を合わせて阿弥陀の顔を窺うことに本当に意味があったらいい。悼みたい人の名前を日々指でなぞることで何か変わればいいと思う。ラピスラズリの数珠にアクセサリー以上の意味を持たせるのは自分しかいないのだろう。身を投げ出して祈れば、狂おしいほどの望みは手に入るのだろうか。

 

ぼくはぐったりしている。なんかもう、血の繋がった親戚とかどうでもよかった。認知症の進行した祖父が自分を忘れているかもしれないことだってどっちでもよかった。ぼく以外の子どもたちは祖父がぼくたちを覚えていられるようにアルバムを作るらしかった。ぼくは数年前、慕っていた曾祖母が亡くなる間際、弟のことは覚えていたのにぼくのことは記憶からすっかり失くしてしまっていたあの後から、そういうのを諦めてしまったのだった。

 

ぼくにとって唯一大切なのは伯母の佳奈子だった。彼女は五十歳で亡くなり、今日はその七回忌だった。彼女には空想することや魔女になるために必要なことを教わった。それはぼくの基盤をつくった。彼女がぼくをどう思っていたかはわからないけれど、ぼくは彼女の夢見がちな不安定さが好きだった。本棚には彼女にもらった本がたくさん並んでいる。彼女は本が好きだった。

 

一冊だけ、彼女が教えてくれたはずの絵本の題名が思い出せないでいる。ぼくはそれをいたく気に入り彼女の家で何度も何度も読んだのに、遺品整理でもその本は見つからず、おぼろげな記憶はどんどん薄れていく。

 

真っ黒な服を脱ぎ捨てるぼくにあれこれ声をかけたきみも、大勢の人にもみくちゃにされた感じに疲れているようだった。きみはいつもならダイエットのために禁止しているメロンソーダをぼくに何杯も飲ませてくれた。死んだ人と会えないのを悲しみながら、生きている人と会えないのを悲しみながら、会いたくない人に会わねばならないことに苦しみながら、今日もきみと眠りに就くことにしよう。