レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

きれいな殺し方を知らないなら刃物なんて持つものじゃない

きれいな殺し方を知らないなら刃物なんて持つものじゃない。腹に横一文字にえぐられた傷を押さえる者の気持ちなんて想像できないのだろう。傷は灰色に腐り、周りを虫がたかっている。ひどいものだとぼくは恨む。

 

ぼくは計画を練る。ぼくは殺し方を知っている。知っているがきれいには殺さない。この包丁は二年以上研いだことはない。それとも花火を上げようか。かわいらしいラッピングを開けたら大きな火花が上がる、そんな細工を施してあげてもいい。

 

腹に脂肪がつきすぎだったのだろう、こうやって切られて少し軽くなったような気がする。感謝するふりをして、レールの上に突き飛ばそうか。ぼくはひるまない。ためらうことができない。ぼくは自分で警察を呼べる。朝霞警察署には友人が何人かいるんだ。彼らはぼくのために大量の書類とすてきな独房を用意してくれるはずだ。

 

ぼくは膝をついてお祈りをする。きみはぼくの口に氷を小さく削ったものを与える。ぼくは立ち上がりきみのために目玉焼きを作る。オレンジ色の黄身をナイフで破ると、きみは覚悟を決めてそれを口に運んだ。ぼくはきみのために祈る。

 

どうぞおかけになって。それで、酒は飲んでいないね。そう、一滴も。香水を飲むのもやめられた? ボトルを見せてくれる?

 

ドアを開ける。ドアを閉める。ドアを開ける。ドアを閉める。鍵を締める。スニーカーのかかとを踏んだまま急いで階段を降りる。駅へ向かう。電車を待つ。一号車に乗り込む。鞄の中にタオルで包んだものがあることを確かめる。柄を掴んでみる。放す。帽子を深く被り直す。窓にきみと幽霊が映る。幽霊はとうとうぼくの心臓を弄ろうとしている。きみはぼくの耳にイヤホンを嵌めて音楽を流す。軽快なピアノ。ぼくは自分には何でもできると思えて、長く息を吐く。