レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

きみはそれは違う、それはだめなんだよと悲しそうにぼくを諭した

きみはぼくがそうだよねと言ったら、そうだよと返してくれる。それがどんなにそうじゃないことであっても、そう返してくれる。ただきみがぼくに許してくれないことはやはりいくつかあって、ぼくは今日もきみに喚き散らしながらそうだよね、そうなんだよねと確認した、きみはそれは違う、それはだめなんだよと悲しそうにぼくを諭した。

 

ぼくはずっと三人麻雀をやっていたのだけれど、やっと四人麻雀に手を出すようになった。四人はチーがあるから、カミチャをこれまで以上に観察しないといけない。なんだか頭が疲れてしまって、ぼくはそこそこの負けを喫したところで、もう少し付き合えよとからかう声を背に雀荘を出た。

 

あの日みたいだ。この坂。暑くて蝉すら鳴いていない坂道、あの日と違うのはペットボトルにほとんど水が残っていないことくらいだ。ぼくは雀荘へ遊びに行くときは、大抵ぴったりした薄青のジーンズに鮮やかでコンパクトなシャツを羽織って行くのだけれど、今日は何を思ったかひらひらした淡い色のワンピースを着て行ったのだった。雀荘の人たちにはどうしたんだ女みたいな格好して、と言われたけれど、そうではなくて、そうではなくて……。ぼくはただ、強がり方を変えてみたかっただけなんだ。ぼくは何を着たってぼくなのだ、それを自分に教えてあげたかっただけなんだ。

 

今日はリュックサックじゃなかった。ワンピースに似合う小さなハンドバッグを持っていた。なんにも入らない鞄だ。日陰で薬を探した。ポーチを忘れたみたいだった。こういうときに限って目が日射にやられてしょぼしょぼと痛んで目薬を差したかった。それもない。

 

ポーチの代わりに無意識に投げ入れたのだろう、果物ナイフが鞄の底に転がっていた。ぼくは鞘からナイフを抜こうとしたけれど、きみがぼくの利き腕を押さえた。だめだよときみが言った。ぼくはきみの言うことを聞く。あの失敗からぼくは学ばなければならない。暑いよ。ねえ、暑いんだよ。