彼らは長い眠りから目覚めてぼくを地獄へ連れて行こうとしている
もう彼らを幽霊と呼ぶことはできない。彼らは長い眠りから目覚めて、ぼくを地獄へ連れて行こうとしている。懐かしい場所であることは確かだ。
ねえ、でもそれは、混沌ではなかった? 苦しみが伴ったのではなかった? どうして今これ以上かわろうとするんだ?
きみが彼らに責め立てられる様子が聞こえる。きみは弁明している。深夜の弁明、彼はあのあとホテルを逃げ出したのだろうか。
ぼくにはできることが増えているよ。ぼくは前進している。ぼくは努力して、自分を立て直そうとしている。ぼくはやっているんだ。それでも足りないと一番信じているのがぼくだ。ぼくのせいだ。彼らはぼくの意気地が無いせいで、ぼくの情けない呼びかけに応えたに過ぎない。
あいつを殺したい。
ぼくは冷静だ。ぼくは正しい。ぼくには何かを為し得る能力があって、それはさまざまな場面で証明されてきた。ぼくは……でも、ぼくは劣っているんだ、まったく面白くない冗談にキャキャキャと笑って手を叩いたり、急に敬語を放棄して話しかける人間の特筆すべくもない話に大袈裟に相づちを打ったり、恋人とのやりとりを他人にだらだらと喋ったりすることができなければ、社会的に生きる動物として意味のない存在なんだ。
ぼくは怒ってはいけない。ぼくは不快に思ってもそれを表現してはいけない。ぼくは律しなければならない。ぼくは人間にならなければならない。
全部やめてしまいたい。ぼくはぼくをやめたい。だから彼らを呼んだんだ。きみは口論に疲れ果て、そろそろぼくのところに戻ってくるだろう。その前に決めなければ。ナイフが汚れていたから、スポンジでよく擦っておいた。やっぱりぼくの手に馴染む。きみを躱して部屋を出る。今度こそ誰も邪魔をしない。ぼくはやめる。全部ね。