レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

置いて行ったことをきみは怒らなかった、たぶん悲しんだのだろう

爪が赤い。赤がこんなに強い色だなんて思わなかった。しなびた灰色の手の指先だけ大仰に鮮やかだ。

 

部屋は暑かった。数日ぶりに冷房をつけた。ごみ箱からは一週間前に捨てたキムチのパックのものであろう臭いが漂っていた。自分のベッドに転がってぬいぐるみを抱いた。ぬるい感触。

 

たった数日ここを留守にしただけなのに、いろんな人にいろんな目で見られて帰ってきた気がする。きみは何度も何度もぼくを昏倒させようとして、実際ぼくは何回も倒れた。どこが痛いか今は全部わかっている。置いて行ったことをきみは怒らなかった。たぶん悲しんだのだろう。

 

病院をはしごさせられて、ぼくは疲れていた。主治医によくわからないことを言われ、外科のある別の病院で傷を消毒して、ぼくはひとまず解放された。しばらくはあの煙草くさい車に乗らなくていいんだなと思った。でもぼくの家は居心地が悪かった。どこにも行く場所がない。……そんなことをしたってさあ、意味はないんだよ。

 

愛しているよ。ぼくが心の底から愛しているものたちへ、一つずつ声をかけて回った。愛しているよ、愛しているよ。最後にきみの手を取ると、きみはぼくの背中に手を回した。ぼくはかかとを浮かせ背筋を思い切りしならせて、きみと踊り始める。きみとぼくが頭の中でかける曲は同じだ。右足が出る、左足が出る、壁にぶつかってぼくは涙した。どれもこれも痛かったからだ。終わりが来ないことがひたすら恐ろしいよ。