レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

音楽だろうが運動だろうがお菓子だろうが、煙草だろうがなんでもよかった

湿っている、ここ数週間は何もかも。胸ポケットにしまっておいた煙草だけはかろうじて乾いていた。一本口にくわえてブルーの百円ライターを取り出す。ゆっくり息を吸うとうまいこと火が付いた。かなり久しぶりだったから、吸えないのじゃないかと心配だった。しばらく重たい煙を吸っていると、きみが苦しそうに咽せたので、なんだかばつが悪くなって、ぼくは三分の二は残っているそれを灰皿に押し当てた。

 

きみが咽せたのはわざとだとわかっていたけれど、ぼくもすすんで吸いたかったわけじゃないのかもしれない。なんでもよかった。ほんの少しだけ今いる場所からぼくをずらしてくれるものなら、音楽だろうが運動だろうがお菓子だろうが、煙草だろうがなんでもよかった。煙草を選んだのは自罰的になっていたからだろう。実際、ぼくはここしばらく自傷行為を我慢していて、自分を傷つけたくて仕方なかった。

 

捨てたいものがあった。ごみ箱に放り込むだけなのに、奇妙な感傷がそう簡単にはさせてくれない。

 

きみはクローゼットの中を探索して、引越し以来出していなかった大きなぬいぐるみを抱えて出てきた。気分を変えようよ、と言って、きみは横たわるぼくの隣にそれを押し込んだ。確かにそのぬいぐるみとは入院中一緒に闘った仲だったし、また背中を預けてもいいかもしれない。きみはぬいぐるみのお腹の匂いを目一杯吸い込んで、それからぼくを急かした。ぼくは急かされるまま、きみが言う通り薬を飲んで、眠る準備を進めた。そうして、ぼくときみの間に大きなぬいぐるみを挟んで、ぼくたちは見つめ合った。きみがゆっくりとまばたきするどこかのタイミングで、ぼくはきみよりも一瞬早く眠りに落ちた。