レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

淡いピンク色に塗られた花びらみたいな爪が、臍の下を彷徨った

高校三年生の梅雨だった。私は学年四位の彼女に勉強を教わるべく、金曜日の夕方、泊まりの荷物を持って彼女の家に上がり込んでいた。彼女の母親は夜遅くまで働いていて、私たちはきゃあきゃあと騒ぎながら勉強をしたり、コンビニで買ってきた夕飯を食べたり、とりとめもなくお喋りをしたりしていた。

 

彼女が風呂を沸かしてくれたので、私たちは順番に入るはずだったのだけれど、どんな問答があったのか、恐らくお泊まりへの高いテンションのまま、二人でシャワーを浴びていた。彼女の家の浴室は低い段のシャワーフックが壊れていて、シャワーは頭より高い位置から雨のように私たちの体を打った。

 

小学生みたいに笑い合って、お互いに湯をかけて、騒ぎ疲れた挙句、私たちはいつの間にか乳房をくっつけ合って荒く息をしていた。ガスの不調なのか、シャワーは時折冷たい水に変わった。水に驚く彼女の小さな声に、私はどんな言葉も言うことができず硬直していた。彼女は何も考えていないみたいだった。少なくとも私のことは考えていなかった。細い指が私の陰毛を擽った。教師にバレないくらいの淡いピンク色に塗られた花びらみたいな爪が、臍の下を彷徨った。

 

私は知っていた。彼女がもうずいぶん前から、私のクラスから一番近い階段の上、屋上への扉の手前の踊り場で、彼女と同じクラスの女の子とセックスしていることを知っていた。学年でさわさわと噂になったそれが事実であることもわかっていた。彼女のお相手が、学年で五本指に入るだろう美しい女の子であることも、そんな美しい女の子が、彼女と部活が同じだというだけでお互いの家に泊まるほど仲の良い私に嫉妬していることも知っていた。

 

私は何してんの、と笑ってシャワーヘッドを手に取り、彼女の顔に冷水を浴びせた。彼女はやっと私の目を見て、ぎゃあっと楽しそうに叫び、浴槽の中に避難した。

 

なんか暑いから湯船はいいや。先に上がってるね、と言って脱衣所へ向かう私の背中に、おなかは冷えてたよ、と彼女は無邪気に言い放った。