レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

雀のひしゃげた頭が転がっていただけで気が動転してしまった

何かホラーゲームの動画を見ていて、主人公が仲間の死体に大層驚いて錯乱する描写があったのだけれど、ぼくは愚かにも他人の死体にそこまで心乱されるわけがないじゃないか、なんて思ったのだった。ところが、タイヤの空気を入れるために立ち寄ったサイクルショップで、自転車を停めた駐輪場のコンクリートに、雀のひしゃげた頭が転がっていただけで、ぼくはちょっと心配になるくらいに気が動転してしまった。大粒の雨が襲ってくる中、雀の頭は本当に小さくて、最初はセミか何かの死骸かと思った。これは何だろう、と屈んで見ると、ぐちゃぐちゃに壊されたものの中に鮮やかな緑色と、おそらくくちばしだったもの、そしておそらく目玉だったであろうものが見えた。

 

ぼくはものすごいスピードで空気をタイヤに入れ、取り乱したままサイクルショップを後にした。はちきれんばかりに膨らんだタイヤは、ここ数ヶ月の漕ぎづらさが嘘みたいに前に進んだ。雨が強まっていた。あの雀はどうやって死んだんだろう。轢かれたんだろうか。頭だけあんなところに転がっていたということは、烏なんかがくわえてきて落としたのだろうか。

 

死にかけの人のにおいは知っている。死が近いことが何をもたらすかも知っている。枕元のロザリオを探した彼女の手の動きも、ロザリオに手を伸ばすこともなくなった彼女の水分を失った皮膚も、ぼくは忘れてはいない。ぼくができなかったこともろとも沈んでくれればいい。