レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

たといレッドテグーになったとしても

動物にならなければならない。

違うな、ぼくはすでに動物だ。そうではなくて、人間でないふりをしなければならない。また嘘をつくのだ。嘘をつくのは得意だ。

 

マリコのことを思い出す。彼女をひどい目に遭わせるのはこれで三度目だ。彼女は愚かにもぼくを憎まない。それがすべて嘘だとわかっているからだろう。それとも、彼女は自分のアパートとアルバイト先の往復さえできていれば他のことはどうでもいいのかもしれない。彼女のことはよく知らない。知らないようにしている。

 

どんな嘘をつこうか。どうやって嘘をつこうか。消灯時間の過ぎた部屋で目を開いたままスマートフォンをいじっていられるのは、就寝前の睡眠薬をこっそり隠したからだ。一種類だけ飲み込んで、あとの二種類は気付かれないよう寝巻きのポケットに忍ばせておいた。

 

明々後日までにきれいな嘘を整えておけばいい。時間はある。

 

ぼくは出してはいけない手紙を書こうとしている。人間をやめれば、手紙を書くこともできなくなるだろう。そうだろうか? たといレッドテグーになったとしても、餌皿に入れられた小松菜を噛み砕き、泥と混ぜて作ったインクに鋭い爪を浸し、がりがりと書いてはいけないものを書くのではないだろうか。

 

きみは白昼夢の中の散歩に付き合ってくれた。初めて行く公園へ向かうきみは楽しそうで、途中の自販機でジュースを買おうよと駄々をこねたりしていた。ぼくは竹林が好きだった。きみは立ち入り禁止の立札を無視して足を踏み入れた。きみの後を追った。暗くて肌寒くて静かでまっすぐで、そこは居心地がよかった。ここに膝をつきたい。冷たい土に剥き出しの痣だらけの膝が沈むのを感じたい。

 

ぼくはベッドの上にいる。たぶん明日もそうだ。竹林を想像している。きみと歩く竹林を想像している。