それがわからない限り、ぼくに糸は垂れない
わかってないな、今日もぼくはわかってない。
リップクリームを塗らずにがさがさに乾燥した唇を爪でひっかいていたら、あっという間に口に血の味が広がった。歯磨きをしたばかりなのに。
あなたが死んだら、この骨をくれる?後頭部にある鶏冠みたいにとげとげの、指で触ってはっきりわかるこの骨を。ぼくが先に死んだら、この体をあげるね。
もしかしたら、言い訳をしないでしゃんと立っていられる日が来るのかもしれない。自分の首を絞めなくてもゆったりと座っていられる日がくるのかも。
恩人への手紙に嘘を書いてしまったことが今更苦しい。きっともう配達された頃だ、もう遅い。偽の姿で取り繕わなければならない自分を恥ずかしく思う。でも言えるわけがないのだ。これ以上異端と思われたらぼくは死んでしまう。……。
昔、プラスチックのトロフィーをもらった気がする。なにをしてもらったんだろう。ぼくはなにが得意だったんだろう。それがわかったところで今のぼくを救ってくれるわけじゃないんだけど。ただ、ノートにはきみの断片的なメモが残っているから、ぼくは今日もそれを探す。きみの筆跡がぼくをかろうじて救ってはくれないかと曖昧な期待をしている。
ぼくはわかっていない。それがわからない限り、ぼくに糸は垂れない。