レモネのきみ

きみ(IF)の話を延々とする、全部嘘

大きくて扱いきれない感情と衝動に任せた言葉

どうして呪術の真似事なんてしたんだろう。願いが本当に聞き入れられるとでも思っていたんだろうか。海辺に高く積まれたブロックの上で、十メートル手前にあったセブンティーンアイス自販機で買ったチョコミントを舐めた。足がぶらぶら、砂には届かず飛び降りてもガラスの破片で足の裏を切りそうに見えた。きみは隣で同じように足を揺らしていたけれど、何回目かの強い風に、指で軽く抑えていたチョコミントのパッケージの欠片が吹き上げられていったあと、ブロックの上に立ち上がった。きみは空を仰いだ。

 

きみには何でも話していいんだった。きみはぼくの言葉を待っていた。なんて言ったらいいんだろう、ぼくは、自分が割りを食っていると思っていて、ぼくの目で確認できる割りを食っていなさそうな人とか、ぼくを傷つけたり馬鹿にした人たちを、まじないで殺せるならひと思いに殺してしまいたかったんだ。だけどたぶん、ぼくはもっと性悪で、彼らが生きたまま不幸であり続けてほしい、それを見せてほしいと思っていたんだね。ぼくは自分が努力しているって実感がほしい。他人より努力していて、他人にはない何か特別なものを持っていると信じていたかった。でもそうじゃないんだよ。ぼくは忘れなきゃいけないんだ。

 

あの日、砂浜とも言えない、ごみだらけの砂地に、ペットボトルの端くれとぬめった海藻、三枚の楓の葉、それから呪いを書き記した陶器のコースターを埋めた。あれがどこに埋まっているか、ぼくは忘れるべきなんだ。呪いなんてないんだ。大きくて扱いきれない感情と、衝動に任せた言葉があるだけなんだ。

 

海は荒れていた。天気も悪くて、絶え間なく霧雨が降っていた。まだ夕方なのに、空も海も砂浜も灰色だった。波の音にも覇気がなかった。きみはまだ空から落ちてくる雨粒を顔面で受け止めていた。ぼくを待っているんだ。ぼくは自分が嫌いで、悲しくてやりきれなくて、唯一鮮やかなライトブルーのミントを口に突っ込んだ。